吐き捨て場

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 家から歩いて5分前後。割と近いゴミ捨て場に初めて行ったときは、いつもと変わりないゴミ捨て場の様子に不安を覚えた。けど、友だちの言葉を信じて吐き捨て場の扉に手をかけた。  友だちの言葉をもう一度頭のなかで再生する。  「まず、ゴミ捨て場に行ったら中に入るの。それからは自由に喋っちゃってオッケー。外には聞こえないし。でも注意して。5時30分から10分間だけだからね」  私は聞いた。  「10分過ぎるとどうなるの?」  「具体的にはわからないけど、知り合いはそれで親友と絶交したって聞いたよ。それからのことは聞いてないけど」  まあ、10分過ぎなければいいだけの話。私は気にせず受け流した。  吐き捨て場の中に入ると他にも人がいて驚いた。7、8人の人が各々壁や吐き捨て場そのものに対して叫んでいた。外にも聞こえそうな声量だけど、さっきは誰の声もしなかった。まるでここだけ別の空間になっているみたい。  来たときは不安もあったけど、他の人も同じように誰かへのうっぷんを晴らすために来ているとわかると知らない人のはずなのに私は心が安心する気がした。  新しく入ってきた私を見向きもせず、夢中で声をあらげる。勢い余ってとんできた拳がぶつかりそうにもなった。本人のいない場所で、しかも誰からもとがめられない。外に声が漏れることもない。まさに理想の場所じゃないの!  ドキドキ緊張しながら私も数学の先生のことを叫んだ。自分の声が聞こえないくらい、周りは騒がしかった。  私は最初に吐き捨て場へ行ったことでその魅力に気がついた。誰も私を責めずに誰かの悪口を言える。ムカつくことがあったらノートにまとめて、第3金曜日まで溜め込んで、午後5時30分に吐き捨て場で思いっきり叫んでやる。10分を過ぎないよう初めは2分くらだったけど、だんだん気にしなくなっていった。腕時計を持っていって、ギリギリまで罵倒する。そんな生活を送った。
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