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老人は、ポケットからカギを出してドアを開けると、
「本当に申し訳ないが……あの布団のところまで、頼みます……」
奥を見ると、六帖間に敷きっぱなしという感じの布団があった。
シンジは「了解」と、そこまで老人を運んで寝かせた。
「本当にアンタは親切なお方じゃな……」
「いえいえ……ほんの気まぐれです。じゃ、僕はこれで……」
「ちょっと待ってくだされ……。お礼がしたい……」
「そんな……お礼だなんて……。大そうな……」
「実はな……私は……数ヶ月前に、遠い未来から来た者でしてな……」
「えっ、未来? 未来って……」
シンジは老人を見詰め直し、
「あの……過去とか未来とかの……未来ですか?」
「はい……。およそ百年後の……」
シンジは視線を移し、ほとんど家具も無く閑散とした室内を見回した。
「その世界で私は、タイムマシンの研究をしてたんです……」
「えっ! タイムマシン?」
視線を即急に老人へ戻し、
「タイムマシンって……あの、時間旅行が出来る……?」
「はい。そして私は、タイムマシンを完成させて、この時代にやって来た
んですが……」
シンジは時間を忘れて、老人の話に聞き入った。
その老人の話によると……
この時代に到着した時点で、タイムマシンのパワーが無くなったため、元の時代に戻れなくなってしまった。
オマケに、彼が出発した年代が六十代だったから、この時代に到着した時のショックで、こんな体になってしまったと嘆き、
「だからタイムマシンを使うのは、二十代、三十代といった若い頃の方がよい。あなたなら、ちょうど良いでしょう……」
「なるほど……。しかし……」
「わしのような、こんな体の状態では、とても生きては戻れない……」
と老人は、シワだらけの顔を涙で濡らして泣くのだった。
シンジは、その光景を見ながら、質問をためらっていた。
が、意を決して、
「あの……すいません、おじいさん……それで、そのタイムマシンは……
その……どうされたんですか?」
「そう、その件じゃが……ある所に隠してある。
じゃから、今回のお礼として、あのタイムマシンをあんたに譲りたいのじゃ……」
「その、ある所とは?」
「このアパートの裏山のふもとの、洞穴じゃよ……」
「でも、そのタイムマシンは、動かないんでしょう?」
「方法はある。雷じゃ。雷が激しい天気の日に、落ちそうな場所に移動するのじゃ。そしてタイムマシンに雷が落ちれば、そのパワーを吸収して直るはずなのじゃ……」
やがて老人は眠ってしまった。
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