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ずっといっしょ
美術館を出ると、もう日は暮れかかっていた。
「こうこ」
呼ばれて振り向くと、長い黒髪と灰色の瞳の女性がすぐ後ろに立っている。20年前と変わらない、あの不思議な微笑みをたたえて。
「未…愛?どうして、ここに?」
「フェイスブック、見たから。明日、妊婦健診のあとに県立美術館に行こうかなって、あなたの投稿。お腹の子、触ってもいい?」
答える間もなく、未愛の白い手が伸びて、私のお腹にそっと触れたと思うと、私はさらさと崩れ落ち、ナツツバキの色をした白と翡翠の砂になっていた。
「ずっとこうしたかった。私、砂時計職人になって、紅子をきれいな砂にしてガラスの中に閉じ込めたかった。やっとできたよ。大切な紅子。夢が叶った。ね、これからは紅子と、赤ちゃんと、私、ずっと一緒だね。もう、離れないよ。」
赤ん坊の泣き声が聞こえ、白と翡翠の霞の中に、私の意識が溶けていく。
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