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同じ点を挙げるのだとすれば、向かい合わせになるように絵が飾られている、ただそれだけだ。
なんとも気味が悪いなと思いながら。
それが収められた額縁に映るぼくの顔をじいっと見つめる。
大きな溜め息と共に、自身の顔を見てひとつ。
ぼくは酷い顔だと笑った。
ぼくの仕事は、電話、郵送、インターネットから注文を受けた菓子の発送作業に関わるものだ。
発送の伝票や付属書類等を封入しつつ、何かしらのミスがないかとチェックしていくという作業。
もちろん、お客様の電話対応もあった。
それらには、注文の電話以外にも、問い合わせ、苦情も数多く含まれている。
苦情の中には、こちら側のミスによるものもあれば、配送会社のミス、店舗のミスに、言いがかりのようなクレームも決して少なくはない。
鳴り響くコール音、お客様と呼ばれる人々の罵声。
それは、ぼくの知っている優しい人というものとは、まるで異なる生き物のように思った。
電話対応をするようになって気付いたことがある。
全国各地から、家族や知人と会話する時の温かみなど、当然なのかもしれない。
そのような心は一切ない電話回線を伝って届くものは、言葉だけではないこと。
人が抱える負の気、マイナス要素ばかりの気が、足元に絡まるコードのように、耳の中へ、ぼくの脳内へと、ぐちゃぐちゃぐちゃと重なり合って届くのだ。
夜、布団を頭まで被っても、そのコール音は鳴り止まなかった。
さらにその耳障りな音に混じるようにして、話し声が、何かの声が、高い声が、低い声が、女性の声だろうか。男性のものだろうか。
甲高い叫び声が、ひそひそと笑い合う声が聞こえてくる。
その大小さまざまな声が耳元で囁くのが、ぼくは嫌で嫌で、嫌だった。
人の声が怖く思えた。
夢の世界に足を踏み入れようとしても、鳴り止むことのない、コール音が
早く電話に出ろと早くこの声を聞けときいて?きいて――一体どうしろと言うのだろう。
それが夢なのか、現実なのかぼくには判断しようもない。
そのようなことをぼんやりと考えている間に、非情にも太陽は昇るのだ。
いやだなあ。由宇さんは、もういない。辞めてしまった。笑わなくなって、涙を流して消えてしまった。
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