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入社して、数ヶ月が過ぎた頃。
その頃には、胃薬という名の心強い友人ができ、休日は病院へ通うのが日課になりつつあった。
それでも、以前よりは、慣れてきたということだろうか、麻痺してきたと言っても良いのかもしれない。
それは、ぼくがいつものように、作業単価が全ての作業に追われている時に気付いた。
いや、もうだいぶ前から気付いていたのかも知れないが。
しかし、忙しさから疲れているのだろうと、ぼくはそれを見てみぬ振りをしてきたのだと思う。
十代の頃に数え切れぬ程に経験した、あの気味の悪い感触、妙に懐かしさまで覚えてしまう、
金縛り……?
さあああっと青ざめたぼくは、周囲を見渡す。
すると、何故今まで気付かなかったのかと目を疑うものが、目の前に、
人の形を模っているような何かが、一本の道を通過していた。
霊道、とでも言うのか。
霊の通り道なるものを耳にしたことはあったが、実際に目にしたのは初めてのことだった。
ああ、ああ。
ぼくは、崖の上から突き落とされたような浮遊感と共に、絶望というそれまであまり馴染みのなかった言葉が頭に浮かぶ。
嫌だと拒絶にも似た感情が、ぼくのマイナスな思考回路が見せているものかとも考えた。
十代のあの頃のように、幻覚のようなものが見える自分がオカシイのかと、落ち着こうと深呼吸を繰り返した。
しかし、深く息を吸えば吸う程、何かがぼくの中へ入っていくような感覚に襲われ、眩暈が、気持ち悪さが、気味悪さが込み上げてくる。
ゴホゴホと咳き込みながら、作業机の目の前を一直線に通る霊道が。不思議と、一階の廊下に重なって見えた。
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