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日が沈む頃、帰宅したパート社員の代わりに電話に出るよう指示されたぼくは、自分に割り当てられた席へと戻った。
ぼくの席は、ちょうど窓の前。
青いスライド越しに朱色に染まる空を見て、その窓に映るものを見て、ぼくは小さな目を大きく見開いた。
ぼくの席の前にある窓は、霊道の出口となっていた。
なんで?なんで?
ぼくは、よろけながら背後を振り返える。
朝から昼過ぎまで過ごす作業机、昼過ぎから夕方まで過ごす顧客データ入力用のパソコンが置かれた机、夕方から勤務時間まで過ごすぼくの席。
これらは、その通り道上に全て位置していることが分かった。
なんなんだ、これは。
「――じゃあ、入り口は?」
「え?」
その時、誰かの声が聞こえた。
バッと左右に首を振っても近くに誰か、などはいない。
何だろうとは思ったものの、ぼくはその問いが、疑問が自分のものであったかのように気になり始めた。
ぼくは、その霊道を辿って行くように、事務室を出て、隣の休憩室へ足を進める。
ゆっくりと、ぼんやりとした気配を追って行くと、その先には絵があった。
この建物に飾られている唯一の、他の塗りつぶされた絵とは異なる絵――それは、この建物の全景が描かれた絵。
その額縁こそが、紛れもなく入り口なのだと、理由などはない。
直感と言うのだろうか、ただ漠然と理解してしまった。
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