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ぼくは、大学卒業後の就職先を無事に見付けることできた側の人間だった。
手放しで喜んでいた頃が懐かしい。
ぼくが仕事というものに、どのような幻想を抱いていたのか今となってはもう覚えてないが、ただ漠然と残っているのは、楽しみだ、それだったように思う。
なにが、ではない。なんとなく、新しい場所へ踏み出していくことを。
不安と紙一重のような薄っぺらい期待など最初から持たなければ良かったのだろうが、まだ若かったのだから、そのようなものを所持していても責められたくはない。
それぐらいは、許してほしいのだが、そういうところが甘チャンと言われるのかもしれないけれども。
悔いが残らぬようにと、書きまくった卒業論文。枚数だって学科内では一番だった。
内容は、まぁ十番以内の評価ではあったが、それでも五十人以上の学生の中では、なかなかの出来だったのではないだろうか。
高校時代、自身の学力にはどう見ても適していたとはいえなかっただろう、そこそこの進学校に在籍していたが為に、成績表なんてまともに見られたものではなかった。
だから、あの頃の僕からすれば、ずっと良い。
上出来だって胸を張れる程の結果ではないが、満足できたと思っている。
それなりに、と付け加えるような程度のものかもしれない。それでも、誰かと比較さえしなければ、悪くはなかったと言えた。
先日、粗方終えたと思っていた高校時代の残骸を捨てた。
その中に、件の成績表もあった。
久々に見返して、思わず笑ってしまう。
想像していたよりも、いや、自分が記憶していたよりも、ぼくの成績なんてものは、ずっと悪かった。悪かったのだ。わるいわるいと分かっていたつもりでも、それなりに、だいぶごまかしていたらしい。
苦笑などできない。ただただ笑ってしまった。
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