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何事もご縁である。その言葉が相応しいような出会いだったと、当時の僕は信じて疑わなかった。
そこは、地元の人間ならば大抵の人が知る菓子屋であり、いわゆる優良企業と呼ばれるものであった。
二部上場企業なんて、こんな田舎でだ。
それは安心安全だと思ってしまうのも無理はないだろう。
就職活動中は、本社の屋根に風見鶏のようにちょこんと居座る会社のシンボルマークでもある象徴的な動物。
菓子の箱やら手提げ袋にも印刷される、あの両の耳が長い動物に、その道を通る度に、さっと両手を合わせていた。
内定を頂けますように。道端のお地蔵様に手を合わせるように、ごく自然な動作で僕は毎日のように繰り返す。
それは内定の電話をもらった後も変わらなかった。
ありがとうございます。と、これから宜しくお願い致します。そのような言葉を繰り返していた。
大学への道中、まるで挨拶をするかのように、何度も何度も拝んでいた。
それは、いよいよ社会人として就職をする、その日まで続いたことだから、一年以上の日課になっていたのだと思う。
思えばあれが偶像崇拝というものだったのだろうか。
得体の知れぬものに、手を合わせるなんて。
馬鹿だったのだろう。今では素直にそう思えるけれども。
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