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ぼくが退職したのは、ちょうど半年後のことだった。
手元には、何も残らなかった。
何かを残すほど、働いていないことは分かる。
プラスになどならないのは当然のことだろう。
しかし、元から持っていたものから引かれて残った差額が、あまりにも大きいようにも思う。
当たり前のようにあったもの健康な心身。
二十三年の歳月を積み重ねてできたもの。
それは、確立しつつあった自我とでも言えば良かったのか。
思えば、決して嫌いではなかったのだとも思うぼく自身のこと。
そういうものを失って、それらは水が溢れ出すようにどこかへ流されてしまった。
探しても拾い集めようとしても上手く合わせられなかった。
見つけられない、思い出せない。
ぼくがどのように、人と言葉を交わしていたのか、気付いた時には分からなくなっていた。
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