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ぼくの勤務先は、菓子製造工場と、それらの通信販売部署の事務所が一つの建物になっている場所だった。
古い建物を見ると、深い意味もなくさらりと「何か出そうだなぁ」などと口にする人も多いのではないだろうか。
しかし、そこは決して古い建物などではなく、むしろ新しい外観に見えた。
さらには菓子屋というイメージも先行して、日の光のような明るい雰囲気のふんわりと甘い香りが漂うような場所だと想像していた。
しかし何故だろうか。ただ入っただけだというのに。
外から建物の中へと自動ドアを通過した先は、重苦しい空気で溢れていた。
それは、古びた校舎に足を踏み入れたようなもの。
ねっとりとした、言い様のない薄気味悪さが肌に纏わり付くのが分かった。
緊張しているのだろうか。首を傾げる。
いや、と。ぼくは思う。
それは慣れない場所で、社会人というその重みに、柄にもなく自分が緊張しているからなのだ。そう思うことにした。
そんな、そのような簡単な言葉で納得させてしまえる程のレイ感と呼んで良いのか。
他に適切な言葉が思いつかないからそれで言うのだけれども。
そんな程度だった、今のぼくは持ち合わせているものと言えば。
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