1人が本棚に入れています
本棚に追加
「そうだね。大事なことだから、アルヴァもよくお聞き」
ミリアのどこか重い雰囲気を感じとったのか、アルヴァは真剣な顔でミリアを見つめる。
「モルガナでは、赤い瞳を持つ者は、災いの象徴である化物、という伝承があってね。それでレイヤの瞳が赤かったもので、親は迷うことなく、この子を捨てたんだよ」
「なっ!? それは、本当なんですか!?」
レイヤが想像していた通り、アルヴァは食いついた。そんな彼に、ミリアは教えてやる。
「レイヤはね、実はモルガナの王女なんだよ。つまり、命じたのは国王だ。それで、捨ててくるよう命じられたのは、カルトだったんだよ。でも、カルトはそんな話は信じていないから、私のところに連れてきたのさ」
「そうだったんですか。レイヤのこの美しいルビーの瞳が、災いの象徴で化物だなんて……」
アルヴァは、レイヤの頬を優しく撫でる。
「赤い瞳が、災いの象徴で、化物なものか。赤い瞳は恵みの象徴。実際に俺は、レイヤという美しいきみを、手に入れることができる、恵みを与えられた幸福者だ」
「そう言ってもらえて、嬉しいわ。アルヴァ。……ねぇ、お願いがあるの」
「ん? なんだ?」
甘えるようにしだれかかるレイヤの肩を、アルヴァは抱きしめながら、問いかける。
「私の父であるモルガナの国王が、私を探してるらしいの。もしかしたら、私が生きているから、災害とか飢饉が起きていると考えているみたいなの。だから……」
「待て。それは、レイヤの命を狙っている、ということか!? それは断じて許されることではない!」
アルヴァは力強く、レイヤの肩を握った。
「安心してくれ、レイヤ。きみを害するものはすべて、俺が消してあげるよ」
レイヤのルビー色の瞳が、妖艶な赤い色を放つ。
「フフッ。ありがとう! 大好きよ、アルヴァ」
「俺は愛しているよ。レイヤ」
ミリアは「おやおや」と思いながら、口は挟まなかった。それでレイヤが、幸せになるなら文句はないのだ。
「それじゃあ、母さん。また来るね。カルト兄さんによろしく」
「義母上も、義兄上とご一緒に、いつでも城に遊びに来てくださいね」
そう言って、二人は帰って行った。
ミリアが後かたづけをして、一息ついていると、外から馬の嘶きが聞こえてきた。そして、戸が派手な音を立てて、開けられる。
「お兄ちゃんのお帰りだぞ! レイヤ!」
そこにいたのは、カルトだった。満面の笑みで両手を広げて宣言するカルトだが、彼の待ち人である妹の姿はすでにない。
「もうアルヴァと帰ったよ」
ミリアは嬉々として帰ってきた息子に、事実を告げた。
「そ、そんな……。やっと、会えると思ったのに」
カルトはショックのあまり、その場に崩れ落ちる。
「そんなとこにいないで、とっととお入り」
「あぁ。ただいま、母さん」
「おかえり」
カルトは外に置いていた大荷物を、家の中に入れた。
「もう城には、帰らないのかい?」
「さすがに戦争には、巻き込まれたくないからね。国王たちは大騒ぎさ。これも全部、災いの象徴がどこかで生きているせいだって騒いでる」
「戦争が起きることに関しては、まぁ、あながち間違いではないからねぇ」
テーブルについたカルトに、ミリアは紅茶を出してやる。そして自分のカップに、新しく注ぎ足す。
「赤い瞳を持つ者は、災いの象徴。たしかに、モルガナの人間たちからしたら、あの子は災いを呼び込んだと言えるだろう。あの子の一言で、国が滅ぶことになるんだからね」
ミリアの言葉に、紅茶の香りを楽しみながら、カルトは笑う。
「でも、俺はよかったと思ってるよ。癪に障るけど、レイヤを想ってくれてるアルヴァがいるし、フェルガの国王と王妃、それに国民たちは、レイヤを歓迎してくれている」
「フェルガ王国は、赤い瞳の本当の伝承を知っているからね。
赤い瞳を持つ者を大切にすれば恵みを与え、邪険に扱えば災いを与える。これが本当の伝承」
ミリアの言葉に、カルトは頷く。
「モルガナの国王は、本当の伝承を知らなかった。だから、ただ災いの象徴という理由で、レイヤを捨てることを選んだ。その時点で、モルガナ王国が滅びるのは決まってしまったんだ」
「そして、レイヤを大切にしてくれているフェルガ王国は、繁栄の道を歩むことになる。まさしく、伝承通りにね」
ミリアは窓の外を見つめ、小さく呟いた。
「赤い瞳を持つ者は、思いのままに運命を操る。これからあの子は、どんな運命を描いていくんだろうね」
「俺はレイヤが幸せなら、家族が幸せなら、それでいいよ」
「そうだね」
二人は小さく笑い合う。気が付くと、紅茶に映る彼らの瞳は、血のように赤い瞳をしていた。
最初のコメントを投稿しよう!