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もうすぐ、桜のつぼみが開きそうだ。明日にでも、関東に桜の開花が発表されるに違いない。今日はまだ涼しいが、明日は全国的に気温が上がると言っていた。
鎌倉駅からタクシーに揺られた。降りた寺の参道には開花を待ちわびる花びらが無数に見えた。
夏樹と母由美子は、父の墓に花を手向け、墓石に水をそっとかけた。
「それにしても、ねぇ。うちってほんとに、航空一家なのね」
由美子はあきれたように言いながらも、どこか嬉しそうだった。
「というか、私はむしろお母さんからは反対されるんじゃないかって思ったよ」
「え、どうして?」
「だって、フライトでパパを亡くしてさ、普通は娘を同じ仕事には就けさせたくないって思うかなって」
「あら、これでも空の女よ。パパの事故は確かに悲しかったけど、それで空を恨んだり憎んだりはしないわよ。パパも私も好きだった空を、夏樹が目指したいって思うのは当然じゃない。それを応援しなきゃ。親なんだもの」
「ふふっ。そっか。よかった」
「ほら、パパにも報告!」
二人は栄一郎の墓前でそろって手を合わせる。
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