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『入学の時』編
銀杏並木の青々とした枝葉に、さわやかな春風が吹き渡ると喝さいのような葉音が緑丘学院大学のキャンパスを包む。どこかそわそわしながら歩く新入学生や、サークル勧誘にいそしむ学生たちを、手を差し伸べる司祭の銅像が祝福しているかのように見下ろしている。スーツに身を包んだ白根勇治は、学部ごとの学生証交付を済ませ、ペデストリアンデッキのベンチに腰掛けて行き交う学生の中に、来るはずの待ち人を探していた。
「勇治!」
声が聞こえた途端に視界が手でふさがれる。声は視線の先からではなく、ベンチの後ろからだった。
「夏樹、ちょっとベタすぎない?ていうか恥ずかしいよ」
一瞬は驚いたが、その声の主を確かめるのに振り向く必要などなかった。高校1年生の時、半ば一目惚れし、夜の公園で射止めたときから、早いものでもう3年弱になる。勇治は視界をふさいでいた手をそっとどかす。夏樹はケラケラと笑っている。
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