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<第十五話・他力>
小さく開けた窓の隙間から、前田美嘉は事の一部始終を全て見ていた。
何者かが後をつけてきていることもわかっていたし、西垣由羅が自分に相談しに来た理由の半分が“カマかけ”であることは想像がついていた。協力者である人物を危険に晒してまでも真実を知りたいと考えた度胸は流石“選ばれた寄り代”と言うべきだろうか。
テニス部の面々で、彼女が生き残ったのは少々意外ではあったのである。選抜を行った者達も大層驚いていた。彼女は友人に恵まれているし、うまくいけば生き残る可能性もなくはないとは思っていたが――あの屈強な者達を抑えて生還するのがあのような小娘であろうとは。いわば、彼女は大穴候補。万が一教師に見張りを潜り込ませておくか、ぐらいのポジションであったというのに。
まあ、最有力候補であったのが彼女の兄だということを考えれば、兄に守られて妹が生き残ることも有り得ないわけではなかったわけだが。
――後をつけている人間が誰であるかまでは確認できなかった。ただ、もしも西垣由羅本人であったなら、多少痛めつけても殺さないようにという“指示”は出してあったのだけど。
無形の落し子は、召喚主である自分達の言うことを聞いて健気に働いてくれる存在だ。主たるツァトグアのために自分達が動いていることを察しているからかもしれない。脆弱な下級の奉仕種族とはいえ、より儚い人間からすれば十分驚異となる存在であるはずだった。実際、由羅に雇われたか由羅の親戚(?)に命じられたのであろう男はあっさりと落し子に飲み込まれて食い尽くされた。落し子に抱きしめられ、愛されてしまった者がどうなるかは自分達でもわからない。ただ、何度か生贄を与えてみて、どうにも殺された者は跡形もなく吸収されて血も骨も残らないらしいということがわかっているだけである。
そんな奴に、莫大な資金を使って作り出した“神の寄り代”を食われてはたまったものではない。
だから、男を食い終わった落し子が標的を由羅とその保護者に変えた時も、食うのは保護者のみで由羅のことはきちんと生かして返した筈である――多分。予想外だったのは、単体だったとはいえあそこで落し子がただの人間に撃破されてしまったことだろうか。
いや。あれがただの人間ではなかったのが最大の誤算だった、というべきか。
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