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「――っ!」
「はい、悲鳴は上げないでくださいね、由羅さん」
真っ青になり、顔を引きつらせる由羅。その口を反射的に覆って、静かに澪は告げた。
二重尾行させたのは、結果として成功だったわけらしい。教師を直接追いかけた鹿島が、前田の家の玄関下から飛び出して来た黒い液体に一気に飲み込まれて消えた。それを自分達は、やや離れたところから目撃したのである。
そう、人間の目には黒いスライム状の液体、としか認識できないことだろう。正体を知っている者はそう多くはないはずだ。
そう、邪神たるニャルラトテップ、澪ならばそれを理解している。あれはそう――無形の落し子、と呼ばれる存在だ。
――旧支配者、ツァトゥグァの奉仕種族がなんでまたこんなところにいるんですかねえ……。まあ、何かを従えているであろうことは簡単に予想できましたけど。
「あ、あの……」
由羅の震えが収まってきたところで手を話せば、彼女は震えながらも尋ねて来た。
「あの、さっきの、おじさんは……どうなってしまったんでしょう、か」
「死んだんでしょう」
澪はにべもなく言い放つ。少し可哀想なことをしたな、と思わなくもなかったが感想はその程度だった。彼は結局自分が何の神であるのか、どういう恩恵を受けられるのかも何も知らないまま死んでしまった。どうせならもう少しイイ思いでもさせてから使い潰してやっても良かったかもしれない。いくらなんでも出会ったその日に、こうもあっさりいなくなってしまうとは予想外である。
確かに、あの女教師をそのまま尾行したら危ない気がして、新しく得たばかりの下僕を使う判断をしたのは自分であるが。
「無形の落し子が出てきたということは……やはり、貴女達を誘拐した組織は、なんらかの神格を呼び出そうとした可能性が高いことになりますね。あるいは、その神格との意思疎通を図るための寄り代として、貴女という存在が必要だった、か。あれを従えているのなら、連中が呼びたい神というのはツァトゥグァなのかもしれません」
「つ、つあとぅぐあ……?」
「ああ、こちらの話です。今はそのへんを詳しく説明している時間はなさそうなので」
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