<第十四話・無形>

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 旧支配者――彼らは、クトゥグアと同じカテゴリに属する神々であり、ニャルラトテップら外なる神とは別格の神として位置づけられる存在である。現在の支配者である古き神々との戦いに破れ、今はそのどの神をも封印され眠りについているはずだった。  ただし、封印されているといっても、完全にその力がなくなったというわけではない。神々の意思もまた、全て眠らされたわけではない。制限つきでその力を世に引っ張りだそうという者も少なくない――なんせ、どの神も人間の認識では計り知れないほど恐ろしい力を持っているからだ。そういう意味では、常にこの地球はそれらの神と、神の復活を目論む者達によって危機に晒されていると言っても過言ではないのだろう。  前田が、ただあちら側に通じているだけの人間ではない、ということがこれで確定したわけだ。明らかに、組織の中でもそこそこの地位に属する人間、あるいは人外ということだろう。確かめねばなるまい――彼らが復活させようとしているのがグレート・オールド・ワンの一柱であるのかどうか。なんせ、彼らは自分の大嫌いなあのクトゥグアのお仲間である。みすみす復活を許すのは正直癪だというものだ。というか、一柱でも復活したら人間の数が大幅に減ってしまうのは避けられないので、それもそれで楽しみがなくなってしまって困るのである。 ――やれやれ、興味本位で遊べれば十分だったはずですのに……少し、本気で遊ばなければいけないようですねえ。  ずるり、と黒い粘液の塊は蠢いた。もはや飲み込んだはずの巨漢の男は影も形も見えない。血も肉も骨も、残さず消化して栄養にでもしてしまったのだろう――いや、あのドロドロスライムに消化・吸収機能が本当に備わっているのかは定かでないのだが。  そしてその粘液が、数十メートルばかり離れたところで観察していた自分達の方を“向いた”気配があった。 「やはり気づかれますか」  呑気に呟く澪の腕に、必至で縋り付く由羅。絶叫しないだけ立派なものだと少しだけ感心する。自分はともかく、由羅があれに飲まれたらひとたまりもないだろう。  仕方ない、少しだけ本気で追っ払うことに決める。
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