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思いがけない来訪者
「半月ぶりだな」
チャイムの音が部屋に響き、一瞬居留守を使うか迷ったけれど、いい加減この関係に終止符を打ちたかった私は仕方なくドアを開けた。
そこで目にした京介の顔は、以前出向でうちの支店に来ていた時より、何倍も覇気に満ちていた。
その事に、内心首を傾げつつ、彼の隣に居る二人の人影が眼に入り視線を向けた。
そうして、私は固まった。
「よ……吉岡常務っ!?」
「ああ、君が長谷川君か……!申し訳ないっ……この度は本当に、申し訳ない事をした……っ」
そう言って、本社では話をしたことすらなかった吉岡常務に頭を下げられた。
常務取締役、吉岡泰三(よしおかたいぞう)氏。
うちの会社は経営陣が同族で占められており、彼は社長の従兄弟にあたる人である。
しかし、小さなアパートの玄関で、深く腰を折る初老の男性は、なんともこの場所には不似合いで。
「え、あの、え?」
「とりあえず、悪いがお前の部屋に入れてもらえるか? 吉岡常務の他に、もう一人居る。部屋の前で三人並んでるんじゃ、何事かと思われるだろ」
驚く私に京介がドアの向こうを目で示す。
吉岡常務の少し後ろ、小柄な身体で気が付かなかったが、そこには女性が一人居た。
「よ、吉岡真奈美、さん……?」
名前を呟く私に、こくんと相槌を打つ彼女の顔は、どうしてか涙でぼろぼろになっていた。
朝には綺麗に施されていたであろうメイクも流れ落ちて、見るも無残な事になっている。
……一体、どういうこと?
内心わけがわからなかったけれど、本社の重役とその姪御さんを外で立たせるわけにもいかず、私は京介を含め三人を自分の狭い部屋へ招き入れた。
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