702人が本棚に入れています
本棚に追加
加害者の末路
「俺に、常務の後ろ盾が欲しければ、自分と付き合えと言って来たんだ彼女は。それを俺が撥ね付けると、無理矢理抱きついてきた。その後された行為がアレだ。無論すぐに引き剥がしたが、まさか彼女に脅された他部署の男が、隠れてカメラを構えていたとは知らなかった。俺以外にも、同じ手口で写真を撮られた奴がいる。そいつらも交際相手が突然自分の元を去ったらしい。他にも何人も居るんだよこんなことやられてた奴が」
「どうしてそんな……」
京介の言葉に、ただ呆然と呟きを漏らす。
誰かを故意に傷つけて、相手を貶める様な事をして、何の意味があるのだろう。
私には、到底理解できるものでは無かった。
「自分以外の女に、気に入った男が気を取られているのが許せなかったんだとよ。馬鹿馬鹿しい。世界の中心にでもなったつもりか。育てた奴の顔が見てみたいが、元々コイツを社に入れたのは常務だ。その助長を促したのもな」
冷たく言い放つ京介に、吉岡常務と真奈美さんの両方が、怯えた瞳で彼を見つめた。
「好いた男が、他の女とキスしてる姿なんざ、万が一男の交際相手が妊娠でもしてたらどうする? 大袈裟じゃ無く、それがきっかけで流産する事だってあるんだ。疑心は人間にとって一番のストレスだ。しかし幸いにも、俺が調べた限りでは画像を送られた女性の中にそういったのはいなかった様だが。この女は精神的に人を殺す寸前の事をやりやがったんだよ。やり方だって最低の部類だ。謝ったぐらいで済む事じゃない」
―――精神的に、人を殺す。
京介が言った言葉は、たぶん私にも当てはまっている。
彼女から送られた、一枚の画像。
それまでの経緯。
その二つは、私の心を疲弊させ、身体が拒否するほどの苦しみを私に与えた。
彼女が画像を送りつけた女性の中に、万が一にも、大きなストレスを抱えてはいけない状況にあった人がいたら―――そう考えるだけで、恐くなる。
「本当に、申し訳なかった……私の監督不行届だ。私にも、将来味方を増やせるという愚かな考えがあった……。真奈美がした行いの全てを調べ、悪質な画像を送られた関係者には謝罪と相応の対応をすると約束する。真奈美にも相応の対価を何らかの形で支払わせる。長谷川さん、貴女も、本人希望での異動となっているが、君が望むなら本社に戻れるように私から手配しよう。本当に、本当に申し訳なかった……っ」
「いえ、その、事情は……理解出来ましたので……」
自分や京介が巻き込まれていた出来事の詳細が、あまりにも衝撃的過ぎて、私の中でいまいち消化しきれていなかった。
おかげで、かなりたどたどしい返事になってしまう。
「まあ、当たり前だろうな。二人には、これから迷惑を掛けた奴ら全員、俺のように婚約を破棄された奴にも頭を下げにいってもらうさ。正直言って、面倒だがな」
そんな私に京介はふっと笑いかけると、吉岡常務達に厳しい視線を向け言った。
常務と吉岡さんは、びくびくしながら京介を見つめている。
「とりあえず、関係者には全員に簡単な説明の連絡をしてある。直に会うのは明日以降だ。俺は千尋と話すことがあるからな……」
京介に促され、吉岡常務は真奈美さんと共に一旦帰ることになった。
最初のコメントを投稿しよう!