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無意識への涙
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差出人:桐島 京介
○月○日○曜日 21:22
件名:あの後、大丈夫だったか?
俺がいない方が良いみたいだから帰ったが。
あれから大丈夫だったのか? 今日は一人で過ごせたのか?
様子を見に行きたいが、お前が一日いないだけでこんなに大変だとは思わなかったよ。
だが皆実力のある者ばかりだ。これを纏めるのは一苦労だろう。
千尋が休みだと聞いて皆目を丸くしていたぞ。
朝一の慌てようは見ものだった。
仕事は回っているが、お前が居てこそのチームだな。
良いチームだ。
帰りに差し入れを持っていく。
ドアノブにかけておくだけなら、顔を合わせなくて済むし良いだろう。
また連絡する。
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久しぶりの発作で、全身が疲労していた私は京介の勧めもあって一日休みをもらうことになった。
新部署が立ち上がり、未だ慌しい最中だというのに快く休暇をもらえたのは、京介の口添えがあったからこそだと思う。
画面に映された文章を見て、少しだけ温かい気持ちが込み上げる。
たった三ヶ月とは言え、自分が主任を勤めているチームを褒められ嬉しかった。
本社からの希望異動でやってきた私を煙たがる事なく、快く迎え入れてくれた同僚達。
個性は少々強めだけれど、皆実力のある人達ばかりだ。
磨り減った心を、澱みに浸かりかけていた私を、この三ヶ月支えてくれたのは仕事と、彼らだった。
京介からの差し入れの申し入れに、断りを入れるかどうか若干迷う。
けれど、顔を合わせない配慮までしてくれている事に心が咎めて、メールを打とうとした手を止め、気付く。
―――私、今。
京介に、返事を返そうとしていた―――?
事実に気付いて愕然とする。
「……っ!」
どうして。
昔みたいに返事を返そうとしていたのか。
断りなど、放っておけばいいのに、なぜ、返信ボタンを押そうとしたのか。
あれほど。
あれほど絶望させられて。
触れられれば、意識を手放したくなるほどに、傷つけられて。
未だ、何も知らないフリで、わからないフリで、平然と迫ってきている彼に。
どうして……。
するり、と手から携帯が滑り落ち。
私はベッドで、静かに泣いた。
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