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終わる為の返信
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差出人:桐島 京介
○月○日○曜日 21:46
件名:メールでいいから。
千尋がメールをちゃんと読んでくれてる事は知ってる。
ありがとう。
だが、そろそろ期日が迫っている。
俺が出向してから二ヶ月が経っている。
もうあまり時間が無い。
メールで良い。
話してくれないか。
どうして突然、俺から離れた?
身体が拒否するほど、俺はお前に嫌われたのか。
自分が何をしてしまったのか、わからないんだ。
頼む。
もう、これで終わりにするから、教えて欲しい。
俺は千尋に、何をした?
ーーーーー
京介が短期の異動でうちの支店に出向してきてから二ヶ月余りが過ぎていた。
新部署設立も既に完了し、業務は慌しいながらも順調に進んでいる。
現在は細かな整理作業に入っているが、それも私の長谷川チームのみで手が足りる状況だ。
もしかすると、予定の三ヶ月よりも早く、京介は本社に戻る事になるかもしれない。
携帯をぎゅっと握り締め、深呼吸をする。
今迄、京介に問い詰める事はいつでも出来た。
どうして、何食わぬ顔で私の前に出てこられたのか。
どうして、未だ私と恋人関係であるかの様に、振舞うのか。
どうして、婚約を破棄したつもりは無いなどと、言うのか。
どうして、私に構うのか。
言いたいことはいくらでもあった。
だけど、一度蓋をしたはずの傷を、もう一度瘡蓋を剥がし血を流すような真似を、したくは無かった。
これで終わりにするからという京介の言葉は、本心だろう。
なら、私も本当の意味で終わりに出来る。
もう、彼と関わらなくて済む。
苦しくなる胸も、息も、身体も、時が癒してくれるだろう。
私は再び携帯を見据え、過去の画像を呼び出した。
一枚の画像。
それを、京介への返信メールに添付して、文章は打たずに送信する。
『映っている本人』に、返すだけ。
これで、終わり。
―――送信しました―――
白地に浮かび上がった文字を見て、私の目から涙が一筋、零れた。
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