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思いがけず動き出した足が止まる。
データが残っていない?
今の時代、全てのデータがシステムによって管理されている。もちろん古いデータであれば、紙の書籍によって多少保管はされている。今は復旧システムなど、どの機械にもついているから、データの消失は考えにくい。
それなのに、データがないということはどういうことだろう。誰かが意図的に消したか、それともあまりに未知な存在であるから元からデータがないのか。
いや、それはないか。ロイドの言葉から推測するに、そのバケモノは世界に溢れかえっていたはずなのだから。一つくらい情報が残っているのが普通だろう。
「本当に何もデータがないのか?」
「全くってわけじゃないけど、あまりに少なすぎるんだよなぁ。だって、ボロっちい本には、世界の支配者となりえたって書いてあったのに、それだけなんだぜ?一応データベース漁ってみたけど、ぱっと見なかったな」
「……ほう」
気難しい顔をするロイドに、私は顎に手を当てて思案する。あのデータベースにないとなると、余程そのバケモノはマイナーなものなのだろうか。しかし、世界の全てを詰め込んだ第二の世界とも呼称できるあのデータベースに載っていないことなどあるはずがない。
絶対、どこかに情報はあるはずなのだ。
「俺はアークほど偉い立場じゃないし、開けないデータもあるんだよ。だから、お前が手伝ってくれればもう少し情報得られるかなぁって……」
チラチラと私の顔を窺いながら、ロイドが玩具を強請るような子供みたいに目を瞬かせる。上手い具合に興味が惹かれるように、彼はデータに載っていないという話をしたのだろう。私も立派な研究者の魂を宿した存在であるということを知ってのことだ。専門外ではあるが、データがないと言われて無視できるほど私は落ちぶれていない。
私は、溜息を吐いて彼に向き直る。
彼とは付き合いが長い。研究者として生まれてから共に過ごしてきた大切な仲間だ。そんな彼の探求心を無下にするのは気が引ける部分もある。
正直に言えば、私も少しばかり興味はあるのだ。そのバケモノとやらの存在や、それらが過ごしていた世界のことが。
――少しくらいならば、そちらに時間を割いてもいいだろうか。
「……少しだけなら、手伝ってやらなくもない」
諦めたように言えば、ロイドが「ほんとか⁉」と目をこれ以上ないほど輝かせて立ち上がる。揺れた机に乗っているカップが揺れ、危うくコーヒーが零れるところであった。
「さすがアーク!よし、じゃあ早速今日から調査だ!」
ご機嫌に笑ったロイドに強引に手を引かれ、データベースのあるメインコンピュータールームに連れていかれる。
そうして、私とロイドはバケモノの研究を開始したのだ。
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