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宇宙港には、証明写真を発行する装置が設けられていた。職員曰く、所持していない外星人は存外に多いらしい。そもそも他にはないシステムなのだから当然だろう。
旅行用カートを携えた人が列をなしており、球体型の筐体に消えていく。
並んで順番を待っていると、ほどなく俺の番になり、前の人と入れ替わるように中へ入った。
球体の高さは成人男性の背丈ほどあったが、内側は思った以上に狭い。無機質な銀色の壁面のせいで、圧迫感もある。
部屋の中央には、淡い光で足形が描かれていた。
『足形の上にお立ちください』
アナウンスが響いた。
促されるまま指定の位置に立つと、壁面が発光しはじめる。
やがて皮膚の表面を撫でるように光が身体を包み、足元から頭頂へ向かって上がっていく。
――スキャニングか。
病院で、似たような検査を受けたことがある。
ありとあらゆる方向から、身体の組織を調べることができるもので、円筒形の装置に寝かせられたものだが、それを縦型にしたものなのだろう。
見えない『目』が、俺の身体を調べ尽くしていく。
『生体情報をご確認ください』
声が告げるのと同時に、空間に文字が表示された。
モリノ・ユウヤ Age18
渡航先における身分証明証となる、星間パスポートに記載されている情報と同様のものだったが、詳細を確認していくうちに、それだけではないことがわかってきた。
生年月日に加え、生誕時刻までもが記載されている。俺も知らない情報だから、合っているのかどうかは定かではない。
しかし、スキャニングによる医療技術は進歩している。細胞を分析することによって、それらがいつ発生したのかがわかるというし、身体組織の活性具合を解析すれば、逆算することも可能なのかもしれない。
転居歴もある。俺の父親は転勤族だったので、初等科時代はあちこち動いた。ひどい時には一ヶ月単位で転校したもので、いちいち記憶していない学校の名前もそこに明記されている。
忘れてしまったと思っていることも、情報を引き出せないだけで実は覚えているのだという。脳をスキャンすることで、普段は忘れている記憶もサルベージされたのだろう。
『お間違いがなければ、承認を宣誓してください』
あれだけの情報をすべて確認するヤツなど、いないのではないだろうか。
俺が「承認します」と告げると、表示されていた文字が一度輝いて、消える。次に現れたのは、緑色の楕円型。
『枠の中に顔が収まるよう、位置を調整してください』
図形の右隣にある矢印で、変更できるらしい。
微妙な調整をしたあと、撮影と書かれたキーを押すと、古式ゆかしいシャッター音が響き、空中に俺の顔が浮かび上がる。
撮り直しもできるらしいがそのまま手続きを進め、数分後、無事『証明写真』を手に入れた。
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