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安達美咲は屋上にいた。
今から飛び降りる訳でも、片思いの相手を待っている訳でも、無い。
ただ、ぼんやりと青空を眺めていた。
雲ひとつない、吸い込まれそうな青に見とれていた。
息をするたび肺が冷たくなる。だけど太陽の熱は確かに届いている。その温もりをさらっていく風。その中には、どこか春を感じる。
美咲の好きな空が、ここにある。
ふわぁと、あくびが出た。心地がいい。
遠くを走る電車の音。それから、授業の始まりを告げるチャイムが、小さく聞こえた。
三限目は体育だ。美咲は、校庭を何周も走る気分には、どうしてもなれなかった。だからこうして、更衣室の前を通り過ぎ、屋上へとやって来た。
初めて訪れたのに、どこか懐かしい。
それは、いつか行った神社に似ていた。
都会の喧騒も、学校の不協和音も、ここには届かない。
きっと神様は、崇められるために、そこにいるんじゃないんだろうな。
美咲は、飛行機雲が空を切りとるのを追った。
何かがわかったような気がした。
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