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唐突に、静寂が消えた。
ガチャリとドアが開く。
ため息をしながら、そちらを見ると、男子生徒が一人やって来た。
「なんだ、福本か。」
美咲は、もう一つため息をついた。
福本翼とは、中学の時からの腐れ縁だ。クラスも、帰り道の方向も、その頃からずっと同じだ。
落ち着いた雰囲気なのに、誰とでも仲良くなってしまう。平均よりも少しだけ高い身長なのに、陸上部ではすでにエースだ。
それでいて、勉強も美咲より出来るのだから鼻につく。
「なんだとは、ひどいなー。せっかく一緒にサボってやるのに。」
ジャージ姿の彼が言う。
「一人でもサボれるし。」
二歩ほどそちらに近づきながら返す。うつむいて、心の中でため息をつく。
美咲は屋上から離れようか、迷った。
「さみしいこと言うなよ。」
でも、翼のはにかむような笑顔に引き留められる。
結局、壁に寄りかかって、また空を見上げる。
翼も、黙って美咲と同じようにした。
美咲は、なんだかそわそわする右腕をさする。
胸が苦しい。
最近、翼に冷たくあたってしまっている。気づけば、呼び方も福本にしてしまっているし。中学までは、いや一年の夏休みまでは、もっと距離が近かった。
多分、原因は、あれだ。
夏の終わり、翼とクラス委員が手を繋いで歩いていた。それを見てから、二人きりで居るのが辛くなった。避けるようになった。
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