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あれから、十年ばかりがたった。
この十年で世界は目まぐるしく変わり続けた。
それまでの異常が普通になって、それもまた普通じゃ無くなって、やっと慣れて今の日常になった。
とりあえず、シャワーを浴びよう。
ふらふらとベッドから離れる。あぁ、倒れそう。キッチンに寄り、コップ一杯の水道水を飲んだ。
「ラジオをつけて。」
静寂に、孤独に、今は耐えられない。
流れ出したラジオは、ちょうど気象情報を伝えた。
「いや~、朝から晴れてると気分がいいねぇ~。」
「そうですね。では、今朝の最低気温から。」
美咲は、この常夏のようなパーソナリティと、氷河期のような気象キャスターのアンバランスさに、はまっている。
「県東部は35度、県西部は32度でした。」
「今日は、梅雨の晴れ間!って天気なんでしょ?」
「はい。概ね晴れでしょう。」
「絶好の洗濯チャーンスっ!」
「さて最高気温は、東部は51度、西部も51度でしょう。」
「この晴れ、いつまで続くのぉ?」
ようやく落ち着いてきた。洗濯物は、少し溜まっているけれど、今日はなにもしたくない。
ふぅ、と息を短く吐いて、バスルームへ向かった。
熱いシャワーを浴びながら、今日が休日で本当に良かったと、思った。
さっき鏡に映ったのは、目を真っ赤にはらした自分だった。やっぱり、夢であっても泣いてしまう。
また、彼を思い出す。
また、少し泣いた。
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