妖怪一家

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 回龍(かいりゅう)は、山で出会った男の案内で、彼が住む家にやってきた。 「おかえりなさーい」 「おかえりなさい。信楽(しがらき)さん」  先に男が入ると、中にいる者たちから、出迎えの声が聞こえてくる。 「ただいま。お客様だよ」 「こんな夜遅くに?」 「あぁ。……人間だが、この人は大丈夫だから。すみません、どうぞお入りください」  信楽と呼ばれた男は、回龍に入るように促す。大人しく従い、家の中を見た回龍は、思わず口をあけた。  そこには一つ目の寺小姓の姿をした子供と、ろくろ首の女がいた。 「驚かしてすみません」  信楽は回龍に謝った。回龍は信楽に視線をやる。 「……そなたも、妖怪なのか?」 「はい。私は狸です」  ぽんっと信楽は、狸の耳と尻尾を出す。  それを見て、回龍は目を輝かせた。 「本当にいた! 妖怪は実在した! まさか、この目で本当に見ることができるとは! 怪異を体験するよりも、素晴らしい!!」  回龍は心底、嬉しいというように声高く笑う。  四人は囲炉裏(いろり)を囲んで座った。 「どうぞ」 「すまないな。えっと……」 「申し遅れました。おゆき、と申します」 「感謝いたす。おゆき殿」  回龍は、茶を淹れてくれた、ろくろ首のおゆきに、礼を述べた。すると、おゆきの隣に座っていた、一つ目小僧が手を挙げる。 「ぼくは真眼(まめ)といいます。真に眼で真眼です」 「おぉ! 良き名ではないか。真実を見抜く眼か。それだけ大きければ、隠し事はできんな。アハハハ!」  回龍は真眼の名前を褒めながら、おゆきが入れた茶を飲む。  信楽は回龍に頭を下げた。 「先ほどは名乗らず、申し訳ありませんでした。改めまして、私は化け狸の信楽と申します」 「名乗らなかったのは私も同じ。旅の僧侶をしている回龍だ。して、みたところおぬしたちは人間を嫌っておるようだが」  回龍の言葉に、三人は目に見えて沈んだ表情をする。 「えぇ。はるか昔、妖怪と人間は共存していましたが、今では迫害の対象となってしまっております。我々、三人はそれぞれ住んでいた場所を追われ、ここに住んでいるのです」 「そうであったか……」  回龍は悲しそうに目を伏せた。  自分たちと見た目が異なるものを弾き、差別をしたくなるのは人間の性だ。どの人間も心のどこかで差別をして、自分が優位でありたいと願う。 「この中で人間に化けられるのは私だけなので、時折、裏で育てている野菜を売りに行くのです。ですがそのとき町で我々のうわさが立っているのを聞いて、正直、肝を冷やしました。ここを追われてしまえば、もうどこにも行き場がありませんから」 「なるほど。わたしをここに招いたのは?」 「他意はありません。実際に、この山には凶暴な獣が多いので、危険だと思ったのです」 「親切だのぉ。よし、ならば私が一肌脱ごうではないか!」  回龍の言葉に、三人は目を瞬く。 「私にこうして宿を貸してくれたのだ。その恩を返さないわけにもいくまい。私が町へ行き、妖怪たちは退治したと宣言しようぞ」 「ほ、本当でございますか!」  信楽は立ち上がって、回龍の手を握った。 「そうしていただけると、助かります! そうすれば、私たちは平和にすごせます!」 「任されよ!」  回龍は力強く宣言した。 「おゆきさん、ぼくたち、もう怯えなくていいの?」 「そうよ、真眼。回龍様が、どうにかしてくださると」 「やったー!」  真眼は両手を挙げて喜ぶ。おゆきは深く頭を下げた。 「本当に、ありがとうございます。まだ人間の中にはあなたのようなお方がいるのですね」 「私からしたら、そなたらに出会えたことが、なによりも喜ばしいことだ。しかし、なにか証拠が欲しいのう」 「でしたら、ちょうどよいのがあります」  おゆきは奥の部屋から箱を持ってきた。 「この中に、首が入っています」 「首?」 「ろくろ首の中には、私のように首がつながっている者もいれば、首だけ飛ぶ者もいるのです。これは後者のほう。実は私を追って、ここまで飛んできたのです」  おゆきは、箱をそっと回龍に差しだす。 「おゆきに恋焦がれるあまり、ろくろ首になってしまった男の首でございます。しかし、すでに死んでおります」  回龍は箱を受け取り、しげしげと眺める。 「うむ。しかし、顔はどうなのだ? おゆき殿のように、ただの人間の顔では、そこらの野盗の首を捕ったと思われかねんぞ」 「ご心配には及びません。そいつの口には、人間にはない鋭い牙があります」 「そうか! ならば、問題ないな」  回龍は、首の入った箱を忘れないように、自分の荷物のそばに置いた。 「今日はもう遅いですから、おやすみください。どうぞ、奥の部屋をお使いくださいませ」 「回龍さん、一緒に寝てもいいですか?」 「勿論だとも!」  回龍は真眼と一緒に床についた。  翌日、三人に見送られ、回龍は下山した。そして町でこう言った。「山に住む妖怪は、この雲水、回龍が退治した」と。
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