お世話係ブライアンの回顧録

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「“――そして私は叫んだ。”……と。 ――ふむ」  庭に面した出窓から、レースのカーテン越しに柔らかな光が差し込む。  他に動くもののない、静まり返った旦那様の書斎。ここに勝手に入ることを許されているのは、坊ちゃまのお世話係として旦那様の覚えめでたい私くらいのものだ。 「――しかし……」  回顧録の構想を練っていた私は、首をひねって大きなため息をついた。 「叫んだ」、この表現が、どうもしっくりこない。  かといって、「大声をあげた」では緊迫感に欠けるし、「悲鳴をあげた」などもってのほか。  この場面は、私の半生の中でも一、二を争う、劇的かつ重要な箇所なのだ。なにかこう、クライマックスを飾るにふさわしい、良い表現はないものか。  そのとき、開いたままのドアから、何者かが音もなく部屋に入ってきた。
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