バケモノ戦記

10/11
前へ
/11ページ
次へ
 滑稽なまでにパニックに陥った慎を連れて刑事――保元――は部屋の中に入り、リビングでテーブルを挟んで向かい合って座った。 「……」 本物の刑事を前に慎は怯えて何も言えなかった。 「さっきはちょっと脅したけど、なんか事情あるのか?ぱっと見不眠症ってわけでもなさそうだし、犯罪に流用目的で睡眠薬を欲しがったのか?」 保元は深いため息をつき、警察手帳を慎に見せた。 「警視庁組織犯罪対策部薬物銃器対策課所属、保元忍だ。君は?」 「えっ…あっ…」 保元は、滑稽なまでに狼狽える慎の手を掴んだ。 「落ち着け、深呼吸をして素数を10個数えろ」 促されるままに深い呼吸を何度か繰り返し、素数を10個数えてから、慎は財布の中にしまってある学生証を見せた。 「橋田慎君、〇□高校2年C組ね…」 「……」 「それで、どんな事情があって睡眠薬なんて欲しがったんだ?素直に言えば、無罪放免にしてやらないことも無いけど」 「え…」 「素直に言うんだぞ。絶対に嘘は言うな。こっちは刑事だ、ヒトの汚い部分なんか毎日見ている。嘘は全部見抜くからな」 「…酒飲みの叔父に睡眠薬を飲ませて、風呂で殺そうと…」 「頭が良い奴だ。確かに、泥酔して風呂で溺死しても警察は事件としては扱わないからな。殺すのだけが目的か?」 「…生命保険を…」 「知っているか?保険会社の調査員ってのは、警察並みにしつこい。元刑事もいるぐらいだ。ちょっとでも保険金目当ての殺害の疑いがあると、生命保険なんか一切支払わないぞ。まだ高校生なのに、なぜそんな大金が必要なんだ?」 「……」 慎が何かを隠していると見抜いた保元は、穏やかに語りかけた。 「君だって、まだ高校生なのに逮捕されたくないだろ?おじさんに、全部話すんだ」
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加