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滑稽なまでにパニックに陥った慎を連れて刑事――保元――は部屋の中に入り、リビングでテーブルを挟んで向かい合って座った。
「……」
本物の刑事を前に慎は怯えて何も言えなかった。
「さっきはちょっと脅したけど、なんか事情あるのか?ぱっと見不眠症ってわけでもなさそうだし、犯罪に流用目的で睡眠薬を欲しがったのか?」
保元は深いため息をつき、警察手帳を慎に見せた。
「警視庁組織犯罪対策部薬物銃器対策課所属、保元忍だ。君は?」
「えっ…あっ…」
保元は、滑稽なまでに狼狽える慎の手を掴んだ。
「落ち着け、深呼吸をして素数を10個数えろ」
促されるままに深い呼吸を何度か繰り返し、素数を10個数えてから、慎は財布の中にしまってある学生証を見せた。
「橋田慎君、〇□高校2年C組ね…」
「……」
「それで、どんな事情があって睡眠薬なんて欲しがったんだ?素直に言えば、無罪放免にしてやらないことも無いけど」
「え…」
「素直に言うんだぞ。絶対に嘘は言うな。こっちは刑事だ、ヒトの汚い部分なんか毎日見ている。嘘は全部見抜くからな」
「…酒飲みの叔父に睡眠薬を飲ませて、風呂で殺そうと…」
「頭が良い奴だ。確かに、泥酔して風呂で溺死しても警察は事件としては扱わないからな。殺すのだけが目的か?」
「…生命保険を…」
「知っているか?保険会社の調査員ってのは、警察並みにしつこい。元刑事もいるぐらいだ。ちょっとでも保険金目当ての殺害の疑いがあると、生命保険なんか一切支払わないぞ。まだ高校生なのに、なぜそんな大金が必要なんだ?」
「……」
慎が何かを隠していると見抜いた保元は、穏やかに語りかけた。
「君だって、まだ高校生なのに逮捕されたくないだろ?おじさんに、全部話すんだ」
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