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学校から帰った楓は、バッグの中にメモが入っている事に気が付いた。
「<明日、放課後、旧校舎2階の多目的室 橋田慎>…」
何の用があって、と考えていると、酔って帰ってきた柳、今の楓の事実上保護者で監視役、が玄関のドアを開ける音に気付き、楓が慌ててメモ帳をバッグに捻じ込むとほぼ同時に、柳はノックもせずに楓の部屋に入ってきた。
「た、ただいま帰りました…」
「お前のこの顔と体が今は使えなくて残念だな、楓」
「…!」
柳は楓の肩に腕を回し、制服の上から乳房を掴んだ。
「いっ、いや!」
「おいおい、今更何を嫌がるっていうんだ?男に股を開くのがお前の仕事だろ」
「……」
旧校舎は取り壊しが決まっていて基本的に立ち入り禁止にされていたが、入るなと言われると入りたくなるのが人の性。誰かがぶち破った一階の窓から中に入り、2階の多目的教室に入ると、慎は本を読みながら待っていた。
「…何よ、橋田君」
「うん…これ、聞いてくれない?」
慎は、机の上にスマートフォンを置いて、昨日の喫茶店で聞いた会話を録音したものを楓に聞かせた。
「…!」
「…この話に出てくるのって、竈門さんだよね」
「な、何の証拠があって…」
「店を出る時にこの話をしていた男の顔を見たけど、竈門さんが描いていたバケモノの絵にそっくりだったよ」
「……」
もう言い逃れ出来ないと…実際には、いくらでも出来ただろうが、元々精神的に追い詰められていた楓はあっさりと認めたと教えるために、床に頽れた。
「誰にも言わないでっ…」
「おれ、そこまで悪趣味じゃないんだけど。竈門さんだって、やりたくてやっているわけじゃないし…逃げる気、無いんだ」
「逃げたいわよ!実際、前に一回逃げたわ!でもすぐに捕まって、どうされたのか言わせたいの!?」
「…いいよ…」
「橋田君が知ってもどうにもならないことなんだから、もう放っておいてよ!興味本位で首を突っ込まないで!」
立ち上がって逃げようとした楓の手を、慎は咄嗟に掴んだ。
「借金って、後いくら残っているんだ?」
「だから、それを橋田君が知ってどうするのよ!どうせ何も出来ない癖に!!」
「親の遺産と、大学に行くための学費を貯めてんだよ!それを使えばどうにかなるかもしれないだろ!」
「え…」
まさかの突拍子もない申し出に、楓は勿論硬直した。
「な、なんで…」
「だっておれ…竈門さんが描いたバケモノの絵、凄い好きなんだ…」
照れながらも、言葉を濁しながらも、慎は精一杯の告白をした。
「おれ、もっと竈門さんが描いた絵を見たい…俺に、助けさせてほしい。借金っていくら残っているんだ」
「…後300万円…」
「親の遺産とおれが貯めた大学の学費、370万円なんだけど…おれ、竈門さんを助けてもいい?」
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