バケモノ戦記

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 帰宅すると、飲んだくれの叔父…慎の亡くなった父親の弟…はいつも通りリビングのソファで酒瓶を抱えたまま眠りこけていた。 「ただいま帰りました…」 誰もその言葉に反応はしなかったが、自室として宛がわれている物置に行こうとすると、やつれた義理の叔母…叔父の妻…がキッチンから出てきて、慎のバッグを奪い取った。 「な、何を…」 「今日の家賃、渡しなさいよ」 「そんな…先週渡しただろ!」 「うるさいわね、この居候!誰があんたをここに住まわせてやっていると思ってんのよ!いいから出しなさいよ!」 醜く歪んだ義理の叔母の顔は…楓が描いていたバケモノの絵にそっくりだった。義理の叔母は慎の財布の中身を根こそぎ取り上げてからやっとのことでバッグと財布から手を離し、慎はとぼとぼと物置に向かった。  「……」 埃臭いベッドに横たわって、楓の事を…というか、自身の発言の事について考えていた。実のところ、慎が持っているのは親の遺産だけで、自分で稼いだ金は、叔父夫婦があの有様だったから、殆ど無かった。親の遺産は全額大学の学費に使うつもりだったから、楓に渡してしまったら慎の手元には僅か数万円しか残らないだろうし、そもそも遺産自体370万円も無い。せいぜい200万円ぐらいだし、それだって、その金を楓に渡しても楓が解放される保証など欠片も無いのだ。何しろ相手は非合法集団…要するに暴力団だ。金だけとられて楓は解放されない可能性の方が圧倒的に高い。  どうするか、とごろんと寝返りを打ったところ、ベッドのヘッドボード上に置いてあった小説…図書館から借りた本で、慎の数少ない趣味…が慎の頭の上に落ちてきた。 「ああ…」 小説の内容はサスペンスで、飲酒の上に事故死に偽装して殺す、という内容だった。 「飲酒…事故?」 小説の中で、主人公は標的を泥酔させたうえで全裸にして浴槽に放り込み溺死させていた。 「『警察は風呂での溺死体は目立つ外傷でもない限り事故死として扱う。酒に睡眠薬を混ぜて…』…」
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