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数日後、慎は歓楽街の喫茶店にいた。ネットで知り合った人物に睡眠薬の購入を申し出て、その待ち合わせ場所に指定されたのがこの喫茶店だった。コーヒーを飲み待っていると、いかにも遊んでます、といった風情の男が店に入ってくると、キョロキョロと辺りを見渡していた。丁度、何かを探しているように。
「……」
慎が手を挙げると、男は露骨に安堵して、慎の向かいに座った。
ブース席内で慎が万冊の束を出すと、男は小声で囁いた。
「気が早いよ。こっちは、君が本当に一人なのか確認するためにこの店を指定したんだからさ」
「す、すみません…」
「まあいいや。現物はいま手元に無いんだわ」
「え…」
男が予想外の事を言い出すと、慎は慌てて万冊の束を引っ込めた。
「そう警戒するなよ…まあ俺も警戒しているけど…君が一人だと確認しないと現物は渡さないし金も受け取らないことにしているからさ…一緒に来てくれる?」
「え…あ…ある場所に?」
「うん、そう。嫌なら嫌で別にいいよ。こっちはいくらでも客いるからさ」
「い、行きます!」
「声でかいよ。静かにしてくれ」
「す、すみません…」
男は慎を連れて、とある集合住宅の一室に入った。
「ここで売ってくれるんですか」
玄関に入り、鍵を締めると男は振り返った。
「うん、そう…君、現行犯逮捕ね」
振り返りざま、男は慎の手首に手錠をかけた。
「!?」
「悪いけど、俺、警察官。刑事さんなんだ」
男は、懐から警察手帳を出して慎に見せた。
「医師の処方箋が必要な処方薬、特に向精神薬睡眠薬をインターネットで売買するの、売るのも買うのもどっちも犯罪なんだわ。君、高校生だよね。それぐらい判るよね。未成年だから、とか言い訳使えないから」
慎は勿論パニックに陥った。
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