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「なーに帰ろうとしてるのかなぁ」
「あー、」
面倒で、とは言えず言葉を濁す。
「……あの人は?」
「んー?話したら分かってくれたよ。オトモダチになってくれたしね」
「ソウデスカ」
オトモダチとはロイさんがそう呼んでいるだけで別に本当の友達のことではない。
ロイさんの為に店へと通い、ロイさんの為に動き、ロイさんの為に生きようと【自主的に動く】者たちの事だ。
はたから見ればただの信者でしかない。
そんなものを作れるほどのカリスマ性を備えている人なのだ。
特に性別は関係なく、ベータもオメガも同じアルファさえも彼は落としてしまう。
それ自体は害があるわけではないので別にいい。
過度なファンクラブを作ろうと謎の宗教集団を作ろうと勧誘されなければ一向に構わない。構わないのだが、毎度オトモダチを作る際にロイさんは相手をアツシの方へと誘導して遊ぶ悪い癖があった。
一度はアツシの話を言って聞かせ、相手の反応とアツシの対応に困っている様を楽しむのだ。
つまり、今日の客が絡んできた原因はロイさんだったという事だ。それも故意的にやっているのだから本当にタチが悪い。
なんて悪趣味な……。
しかし今に始まった事ではないのでアツシも諦めている。
ただ、これからはそうはいかない。今日のようにオメガかどうかなどと疑われては面倒だった。
「ロイさん……いい加減お客に俺の話するのやめてもらえませんか?」
「んー?別に特別な話をしたわけじゃないよ。単に優秀な子がいるって言っただけ。……ダメ?」
アツシの肩に手を置くとロイさんは至近距離で首を傾げる。サラリと髪が横に流れていつもは見えない左目が覗く。
薄暗い店内でもよく見える程綺麗な目だ。
「ダメ、です」
「ふふ、ダメって言われても嫌だけどね」
それはそれはにこやかに言い切った。
これさえなければきっと見た目通りのイケメンなのだろう。しかし彼の性格は残念ながらひん曲がっていた。
人の嫌がる事はしたいしむしろ嫌がっているところを存分に眺めたい。
多分世間一般的にはこう言う人間をドSと呼ぶのだろう。
恐ろしい。
ロイさんにはぴったりの言葉だ。
こんな性格なのでにこやかに笑われると背筋がむず痒くなる。
「……オメガかどうか聞かれた?」
弾かれたように顔を上げるとロイさんはクスリと笑う。
「言っておくけど、別に僕がなにか吹き込んだわけじゃないよ」
「じゃあなんで……俺今まで1度もそんなこと」
聞かれたことなどない、と言い募るとロイさんは肩を竦めた。
「やっぱり匂いがするからじゃない?」
「え」
コテンと首を傾げられアツシは動揺した。
――匂いが、する??
「で、でも薬はちゃんと飲んで、」
「うん、殆どしないんだけどさぁ」
スっと近づかれ思わず項を守ろうと手が動いたが、ロイさんに掴まれてそれも出来なかった。
そのままスン、と耳元付近の匂いを嗅がれる。
まるで昨日のようだ。
「……やっぱり匂いするよ。すっごく少ないけど。これのせいじゃないの?」
そう言われても自分では分からない。
発情自体も薬で抑えられているので身体が疼くわけでもない。なので勝手にヒートは終わったような気になっていた。
きちんとヒートの申請を出して休んだ方が良いのだろうか。
アツシがそう悩んでいるとロイさんが意識を戻させるように腕を軽く引っ張った。
「それより、さっきの話考えてくれた?」
「…あ、」
首輪の件だ。仕事が忙しくてついうっかり忘れていた。
首輪は必要だが、もう今日は帰るだけだし明日からきちんと付ければ何も問題ないはずだ。
そう言って断ろうととするとグン、と圧が掛かった。今までで1番強い。
「……っ、ぁ」
カァッと項が熱くなる。それと同時に、人には言い難い場所が疼いた。
「え、なに……っ」
――熱い。
ドクドクと心臓の音が耳のすぐ後ろで聞こえる。
「……ぁ、」
ガクガクと膝が震えて立っていられない。
思わず膝の力が抜けるとロイさんに腰を抱きすくめられた。
「やだ、ロイさ……それやめ、て」
これは確実にロイさんの、アルファの圧だ。それも強制的に発情を促す程のもの。
身体が熱い。
ロイさんに触れられているところ全体がビリビリする。
「はな……っはなして……」
「だって立ってられないじゃない」
「ひ、ぁ……」
誰のせいだと思ってるんだと悪態をつきたかったが、抱え直された刺激で声が漏れて結局言えなかった。
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