弟分に噛まれそうになりました※

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痛む腕と首を擦りながら、アツシは開放されたことにほっとして息を吐き出す。 折れそうになる膝は壁にもたれることで何とか阻止した。 呼吸が荒くなるのを落ち着かせる為、震える唇を引き結ぶ。 その様子をユキオは食い入る様にじっと見つめていた。 暫くそうした後、ようやく落ち着いたアツシはよろよろと身体を壁から離した。 「シャワー……浴びるから……」 暗に出て欲しい旨を告げると後ろを向く。ユキオの反応は確認しなかった。というか、その余裕がなかった。 ――危なかった。 あのままフェロモンに当てられ続けていたらロイさんの二の舞になっていたかもしれない。 まだ奥が鈍く疼いているが、やり過ごせそうな程の疼きに変わっている。何とか本格的なヒートへ持ち込まずに済んだ。 アツシは浴室の洗面台に手をつくと細く息を吐き出した。 ――大丈夫、まだ耐えられる。 そうして何とか自我を保っていたアツシだったが、それと同時に後ろから全く物音がしない事に気付く。 どうしたのかと気配を探れば思っていたよりもすぐ近くで視線を感じた。 「……っえ、」 鏡越しにユキオを確認すれば、口を大きく開けて項に歯を立てようとするところだった。 慌てて制止しようとするが間に合わない。 スローモーションの様にそれを見ているとぬっ、と伸びてきた手にユキオの口が塞がれる。タイガだ。 「……っぶね!コラ!!何してんだよ!」 遅れて驚愕顔のタイガが視界に飛び込んでくる。 タイガはそのままユキオを抱きすくめると、暴れない様両腕も器用に拘束していた。体格差がなせる技である。 「んむ……っ」 急な事にユキオも驚いたのか、パチパチを瞬きをした後視線だけで後ろを確認すると眉をひそめた。 「いてて!噛むなよ」 下顎が動いてタイガの手のひらに歯を立てているのが見える。 文句を言いながらもタイガは手を離さなかった。 一体どうしたんだと視線で問われる。 「あー……」 なんというか迷っていると押さえられたユキオがタイガの太腿辺りを抓った。その後でトントンと叩くのでタイガがユキオの顔を覗き込む。 ユキオはというと、視線だけでアツシを示した。 「ん?」 ユキオの視線を辿ったタイガがアツシの首元へ目を向ける。 「うーわ、痛そ!!大丈夫か?」 「うん……もう大丈夫」 何となく気まずくてそっと手のひらで首を隠す。 「……あー、そういうことね」 キスマークとユキオを見比べ、タイガは困った様に頭をかいた。 「なあユキオ。今噛んだら大嫌いなロイさんと一緒だけどいいの?」 タイガの問いかけにユキオは物凄く顔をしかめる。 「はは、は……」 あ、ロイさんがやったってのは分かるんだ。思わずアツシの喉から乾いた笑いが出た。 「……なら、分かるよな」 そうやって暫く問答した後、今度はアツシに顔を向ける。 「とりあえずシャワー浴びちまえ。風邪ひく。……ほら、ユキオ行くぞ」 「……タイガのばぁか」 「はいはい」 口を隠していた手を退けるとユキオは早速悪態を吐くがタイガはどこ吹く風である。 そのまま肩に腕を回したタイガはユキオを浴室から連れ出した。 ユキオはというと、不貞腐れた様子だが大人しく着いて行くようである。 浴室から二人が消えるとアツシは大きく息を吐き出した。 その拍子に力も抜けてしまい、ズルズルと床へ座り込む。 一気に心臓が忙しなく脈打ち始める。 「も、頭パンクしそ……」 今までこんな事なかっただけに衝撃的だった。 いや、怒られる事ならしょっちゅうある。年上としてそれはどうなんだと思わんでもないが、そもそも始まりが迷子からなので最早今更だ。 しかしオメガになってからというもの、起こったことのないことが起こり過ぎている。 アツシは今後のことを思い、座り込んだまま思わず頭を抱えた。 言われた通り何とかシャワーを浴びて戻ってくるとリビングから二人の会話が聞こえてきた。 何を話してるのか何となく気になって扉は開けないまま、耳をそばだてる。 あまりこういうのはよろしくないのだろうが、さっきあんなことがあったばかりなので少し気になってしまった。 「いやいやいや!そんな思いっきり噛んだらダメだろ!」 ……初っ端から不穏なワードが聞こえる。タイガの声だ。 「でも印って傷になるくらいじゃなきゃ意味ないんだろ?」 こちらはユキオだ。印というのは番のあの(うなじ)を噛むヤツの事だろうか。 え、そんな強く噛むものなのか……? アツシは無意識に自身の項に手を当てた。つい先程ユキオに噛まれそうになったばかりなので何もないのに気になってしまう。 「そーいうもんなのか?」 「じゃないの?こないだのニュースでもやってただろ。オメガのヤツが項噛まれて七針縫ったとか何とかって」 怖っ!!! え、アルファ怖い……!そんな噛むのか?! そんなニュースあったっけ?と記憶を遡ってみるが思い出せない。そもそも最近のことが衝撃的過ぎてニュースを見ている心の余裕がなかった。 「あー、そういや昔噛みちぎって失血死したニュースとかあったしな」 想像してアツシの顔からサァッと血の気が引いた。ついでにそばだてていた耳も思わず離す。 もう無理。目眩がしそうだ。
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