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私にはどうしても何度も見返してしまう写真がある。
まだ生まれてそれほどたっていない私が両親に抱えられて写っているはじめての写真。
それは、
「まぁ〜……かわいい、わ、ねぇ……」
と、誰もが気を使って口ごもるめったにない代物だ。
たいていの赤ちゃんは、まぁそれなりに、どんなに泣き叫んでいたって赤ちゃんらしい可愛さがあるから褒めようがある。なんだけど、まぁ、自分で言うのもなんだけれど褒めようのないかなりの強面をして映っていらっしゃる。
「うん……、かわい……い。あ! ほら、お洋服、も。とっても可愛らしい」
私の美点をうまく捉えられずに困った人たちは必ず小さな私を包んでいる服装に目をやった。真っ白な手織りのレースがふんだんに使われたエレガントな代物で、のっぺりとした頭の上には刺繍がたっぷりと編み込まれたこれまた可憐な帽子がのっかっている。かぶっているんじゃなくてのっかっている。
もうとにかく、上品さを極めたお姫様に捧げるべき服装をしていた。
「ねぇー、これはないんじゃないの?」
私は改めて見直した自分の写真に何十回目かわからないため息をついて母に恨みしか込めていない視線を送った。
「仕方ないじゃない。だってお祝いにくれたのよぉ。着せないわけにはいかないじゃない」
どんだけ似合わなくたって……、と母は躊躇うことなく言い切った。
私だってそこは正直否定しない。仕方ない。やはり純粋な日本人顏の両親から生まれた平凡な私には姫風洋物テイストは似合わないのだ。いっそシンプルなボーダ柄とかならここまで悪くなかったのだろう。切れ長と言えなくもない目も引きたったはずだし、赤子の私もここまで不満げな顔で写真に写ることもなかったと思う。記憶はないけど私にはわかる。絶対にこんな服着せんなよって思ってたのだろう。
「だいたい誰がくれたの? こんな派手な服」
「あら、覚えてないの? スティーブさんよ」
社宅の隣の部屋に住んでいた英国人のスティーブさん、と母は軽やかに言う。
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