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昼下がりのキャンパスにて
「おい、お前、すごいじゃないか!」
「えっ、何が?」
「惚けるなよ、このこの」と学は自分の肩を健一の肩に2回突き合わせ、「憎いよ、この!」と更に突き合せた。
「だ、だから何がだよ」
「俺なあ、見たんだよ」
「えっ、だから何を?」
「お前、今朝、女の子乗せてドライブしてただろ」
「あっ、ああ・・・」と健一は気づいて、「ああ、あの子ね」
「可愛いよなあ」
「えっ、よく分かったねえ」
「だってさあ、喫茶店でお茶してたらさあ、窓越しに丁度、お前の車が信号待ちしてるのが見えてさあ、あれっ!助手席に女の子がいるなあと思って覗き込んだら、むっちゃかわええって思ったもんでさあ」
「ああ、そうだったのか」
「で、お前の彼女か?」
「あ、ああ・・・」
「やっぱり、そうか、お前、隅に置けないな」
「へ、へへへ」
「どこで知り合った?」
「えっ、ああ、あの・・・」
「なあ、教えろよ」
「そんなこと聞いたって柳の下にいつも泥鰌はいないんだから無駄なことだよ」
「へへへ、上手いこと言うな、でもさあ、俺、バーとか、そういうとこかと思ったからさあ」
「違うよ」
「ああ、そうか、じゃあ、しょうがねえな」と言って学は立ち上がり、「先おこされたから俺もこうしちゃいられねえ」
「もう行くのか?」
「ああ、ちょっと野暮用があるしさあ」
「そうか」
「うん、そんじゃ、あばよ!」
「ああ・・・」
まさか、崖で知り合ったとは言えないし、あいつはまだ死ぬ気はないだろうからなあ・・・と健一は思い、地獄へ行く前に一目会いたかった親友の後姿を目で追ってから立ち上がり、また、デートに出かけるべく下宿に残しておいた女の下へ急いだ。
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