見えぬ化け物

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 川を渡りきり、 心底不安気な顔の船頭に礼を告げ清十郎は歩を進めてゆきました。 行き先々で化け物について尋ねると皆顔を横に振り姿形、 いかなる方法で人死にさせられるか等のことを話そうとはしません、 否、知る者が居らぬようでしたが、 かろうじて化け物が住まうとされている山は判明しました。  清十郎が化け物の山に踏み入れた時にはすっかり日も暮れておりそろそろ野宿の用意でも…… と、 蕘を拾い集めていると草臥れてはいるもののほのかに旨そうな飯の香りをさせた一軒の家を見つけました。 ちょうどいい、 話を尋ねるついでに寝屋を借りれぬか聞いてみようと清十郎は家に近付いていきました。  「御免! 誰か居らぬだろうか?」 詫びを入れつつ軽くトントントン。 と戸を叩くと中から聞こえてきたのは歳の若そうな女の声。 清十郎は無意識に佇まいを整しました。  ガタガタと戸を引き中から現れたのはやはり歳若き村娘にしては美しい娘。「 まあ、お侍様。 この様な夜更けにどうされました? 」   自分を見つめて問いかける娘のなんとも可愛らしいことか。 清十郎はハッと息を飲み家の中をチラリと覗くが家の中にいるのはどうやら娘のみ。  「 某はこの山に住まうという化け物を退治しに京より参った。 今晩一晩寝屋を借りれぬかと参じたが…… お主1人か? 」 「 まあ、それは大変でしょう。 この家には(わたくし)1人しかおりませんがどうぞお入り下さい 」 娘は清十郎の話を聞き、一歩さがり中へ促した。娘の1人暮らしと聞き多少の気は引けるが 「失礼する 」 と告げ清十郎は娘の好意に甘えることにしました。
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