見えぬ化け物

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 娘は何もないところですが、 と前置き清十郎をもてなし自分の名をマツだと申し囲炉裏にくべられた鍋より茸と大根の汁を椀によそい清十郎に手渡す。 「して、お侍様は化け物の正体を知っておられるのですか? 」 手渡された椀に箸をつけ一口すすったところマツに問われ、 清十郎はいったん箸を置き「それが…… 」 と口を開いた。  人を死に至らす化け物がいる。 だが姿形、死に至らせる方法はどこで聞いても解らぬこと。 退治に参った猛者共が揃って戻らぬこと。 この山に住まう娘ならば何かしら知っているだろうと道中で知り得たことを差し出された椀を食しながら全て打ち明けた。  暫くは黙って清十郎の話を聞いておった娘が「 …… 清十郎様、 この様な山奥まで態々足を運んでくださったのに誠に申し上げにくいのですが」 と静かに口を開く。  娘が言うには、 この家は元は山村の一つであったこと。 突如村人が1人、また1人と死んでいき終にはマツ1人生き延びていること。 そして…… 化け物が出ると言われながらも誰1人その姿を見た者が居らぬこと。  「 かような程被害を出しているというのに誰も見たことがない化け物等いぬものか!!」  マツの話を聞き、つい声を張り上げてしまった清十郎でありましたが一言「すまぬ 」と詫び俯いた。 しかしマツの話が真実であればいささか不自然だ。 いくら村が廃れたといっても月明かりはあった、 家が他にあったならボロ屋の一つでもあったはずだが、山中にポツンとあったのはマツの住むこの家だけ。 嫌な汗が背中を流れた。
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