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 繁華街のはずれのさらに少し奥にはいった裏通りにその喫茶店はあった。少し先には小さな工場や駐車場が見えはじめる、商業地のはずれ住宅地との境目といったところであった。  それは独立した一軒家なのであるが、建物が寄せ集まった一角にあり、まるでそこだけ時代がさかのぼったような景観は極めて地味で、その界隈に詳しいものでないと見つけられないような、風変りな場所という表現がぴったりあてはまる店だった。  なにしろ、となりの建物は映画のセットなのかと思うくらい、生活感がなく、ただその店の付属品のように隣接していた。  客商売にはむいていないと誰もが思うだろう。不気味なのだ。    ただ、その建物の前に立つと、窓枠にはステンドグラスがはめられ、入り口にはランタンの灯りがともり、木でできた看板、そして蔦がレンガの壁に蔓をのばしている、まさに「喫茶店」らしい雰囲気を感じることができるのであった。  もちろん外観に関して言えば、だが。  そこは、喫茶「ふりこ」という店であった。  その入り口に一人の女性が立っている。入ることを逡巡しているようにも見えた。「営業中」という木札が下がっているのをもう一度確認すると女性は店の重い木のドアを手前に引いた。  女性は一瞬だが、別世界への扉をあけたように感じた。  ドアをさらに引くと、ちいさな音で金属のチャイムが鳴った。女性は足を踏み入れた。 「いらっしゃいませ」さほど広くない店の奥から、男の声がきこえた 「こんにちは」女性はほっとしたようにいうと、声が発せられた方面にあるカウンターにゆっくりとむかった。  店の内部は質素な、というかインテリアに気を配っているところはなく、壁も床も無垢の木材を使っているだけのシンプルなつくりとなっていた。  殺風景といってもいいくらいの味気無さだった。
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