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あめ色のカウンターは光沢のある無垢の一枚板でできていて、すべすべしているのだろう。躊躇いもなく女性は手をつくと、3つ並んだ椅子の一つに腰かけた。
「よかった。営業していたわ」と、本音をにじませてそういった。
「はい。今日でよかったです。不定期にお休みをいただいているので」カウンター内に立つ店員は、弁解するように後半の言葉をいった。
女性は椅子に深く腰掛けると、「本当によかったわ」と、今度は少し小さめに言った。額には少し汗がにじんでいる。皺としみをファンデーションでかくしていても、年齢が「おばさん」から「おばあさん」に移行しているのは見て取れる。
男は水のはいったタンブラーを女性の前にすっと置いた。
「お飲み物は、この前と同じものでよろしいですか?」
そう尋ねると、女性ははっと男をみて、そして少し顔を赤らめ、
「覚えているんですか? ここに来たのはもう、2か月以上前、それにまだ一回だけなのに」と男を見つめた。
「もちろんです。たしかあの時はカフェインレスコーヒーができるかと、お客様はお尋ねになりました」
「その通りです。そんな面倒くさいことを注文する客は、滅多にいませんよね」と、節々が目立つようになった手の甲をさする。
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