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「そうでもありません。この頃はコーヒー豆のカフェインから取り除く方法が、技術的に簡易になりましたので、デカカフェと呼ばれるこのコーヒーが、カフェインの摂取を控えている人から飲まれるようになりました」  男はやや雄弁になった。男は嵯峨という名であった。嵯峨は目の前に座る客こう付け加えた。 「では、今日もカフェインレスコーヒーをいれましょうか?」 「はい。お願いします」と女性は答えたが、飲み物よりも嵯峨の一挙手一投足が気になるようであった。  女は初めて喫茶店に来た時に男の名を知らされた。 「京都の嵯峨野の嵯峨といいます。どうぞ名前でお呼びください」  カウンターの向こうの人に声をかける術がわからず逡巡している彼女に彼はさらりとつげたのだった。  嵯峨は身長は175㎝前後のやせ型で、韓国俳優のような切れ長の目の持ち主であった。白いシャツの上にエプロンをつけていた。  コンロにかけたコーヒーケトルから湯気が立ち上る時間、女性は無言で、店内見回していた。1回目の時はどきまぎして見ることができなかったのだ。  店にはカウンターのほかに、大きいものと小さいもの2つの丸テーブルがあり、それぞれのまわりに椅子が無造作に配置されていたが、椅子は数個しかなく不自然で、なにかが足りないように思えた。  ステンドグラスのはまった窓からは、彩色された光が入っていたが、ほかには飾り物はなかった。壁にも絵画や壁掛けポスター、イラストの類もなく、置物もタペストリーもない。唯一壁際に大きなふりこ時計のみが鎮座している。
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