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恋花
会えるのは
年に一度だけ
花火に彩られた
恋物語の
ワンシーン
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花火が見れて、静かで、ゆっくりできるところ。それが、彼のリクエストだった。
この辺に住んでいなくて、土地勘がないらしいことを知っていたから。
あたしが落ちこんだときや悲しいとき、一人になりたいときに行くあの場所なら、静かに花火を見ることができるかもしれない。そう思って、誰も連れてきたことのない場所へと案内した。
「きれいなとこだな」
そう言いながら、辺りを見渡す彼。小さめの池があって、回りは芝やジャマにならない程度の木が植えられている。
その池には種類は分からないけど、小さな魚たちがゆったり泳いでいて。植えられている木々は、きれいに手入れされていて。
彼のその感想は、あたしが初めてここに来たときに思ったことと重なっていた。
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本当はキミが誰なのか、知っていた。どんな名前で、どんな子なのかということを。
いつもよく笑う優しい子なのも。何かあるときは、一人ここで泣いていることも。
花火大会でキミと一緒にいるところを、イトコにたまたま見られたことで、情報を得ることができたわけだけど。そのイトコが、キミの親友だと知ったら、キミはどう思うんだろう?
そんな小さな罪悪感が、胸をチクリと刺した。
初めて会ったときは、イトコと同じような感覚だった。年が同じくらいだと思ったからかもしれない。
小さい頃から、帰省すると一人で花火大会に行っていたから、イベント本部が案内をしてくれないことを知っていた。迷子に間違えられて、連れていかれたイベント本部で、「イベント中はアナウンスできないんだよ」と迷惑そうな対応をされたことがあったから。
だから、入り口近くで家族が出てくるのを待っていたのを確認したときは安心したんだ。
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花火大会の日に大切な話があると連絡をしたのは、最後の夏休みの帰省前日のこと。泣きそうな顔をしているのが分かるくらい悲壮感の漂う返信をしてきたキミにくすりと笑みをこぼした。
かわいらしい勘違いだな、なんて少し性格が悪いかな。
そんな泣くようなことじゃないから大丈夫だって伝えはしたけど、勘違いされたまま……らしい。というのも、様子を逐一報告してくるイトコがいるから。恋人になる前から、僕の恋愛を応援してくれている存在で、つき合い始めてからもいろいろとサポートをしてくれている。
イトコである彼女には、もう既に『大切な話』の内容は伝わっているらしく、なだめてくれているようだが、言い方が悪かったのか、全く伝わっていないようだ。
花火大会に向かいながら、どうやってキミの気持ちを落ち着けようか考えてはいるけど、飾らないでストレートに伝えるのが一番だろうなと結論を出した。
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花火大会は特別なイベントだと、あたしはずっと思ってる。
彼に出会ったのも、告白されたのも花火大会なのだから、あたしにとっては当然のことなんだけど。
一人っ子だからか、お兄ちゃんのように慕っていた人が恋愛対象になったのは中学生の頃。
後にあたしの親友がいとこであることが判明して、告白をしこんでいたことが発覚したときはすごく驚いたけど、今となってはもう笑い話にしかならない。
遠方に住んでいた彼とは長い間遠距離恋愛をしていて、お正月やお盆の帰省の時期にデートすることしかなかったんだけど。何を思ったのか彼はあたしの地元の企業に就職を決めて、数年前からは時間が合えばゆっくりと会うことができるようになった。
彼のことはもう両親にも紹介していて、ゆくゆくは結婚することになるんだと思う。そういうつもりだって言われてるし。
大学までは地元にいてほしいという両親の願いを知っていた彼が、できるだけ傍にいれるようにって、自分の希望に合う企業をこっちで探してくれた、らしい。
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