【サンプル】恋花

雨の日はあなたとふたりで

雨の日なんて嫌いだった

理由なんてないけど
雨が降ると
すごく憂鬱だったのに

晴れのち雨なら
今は嫌いじゃない

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　朝は晴れていた空が、次第に色を失って、しとしとと雨を降らせ始める。放課後、家庭科室から空を眺めながら、予報の通り崩れた天気に私はうれしさを隠せないでいた。
　雨は好きじゃない、そのはずだったけど。いつの間にか、天気が変わることを望むようになっていた。晴れのち雨だけは特別だから。
　だけど、その天気が保障されるのはあと少し。もうすぐ梅雨が終わってしまう。
「綾花、よかったじゃん」
　手は動かしたまま、親友の由佳が私に声をかける。
　作っているのは、自分が撮り集めた写真から起こした図案を元にしたキレイな朝顔の刺繍。私たちが家庭科部に所属してから、由佳の絵画みたいな刺繍は一つの名物になっていた。
　私の大好きな人は美術部で、本気でその道を志している。彼の絵を見てきている私は、由佳の刺繍が本当にすごいと思うんだ。
　私に同じことができたら、大好きな彼──優馬の絵を刺繍で再現できるのに。
「うん、雨だったら、一緒に帰れそう」
　そう言いながら、私は由佳の隣の、乱雑に広げられた裁縫道具の前に戻った。
　基本家庭科に関することなら何をしても許される緩い部活。顧問の先生もいなければ、私たちが三年生なのもあって、私語を咎める人もいない。
　他の学年の子たちも、グループになって話に花を咲かせていた。

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