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恋は秋の彩りのように
知らなかったんだ
自分の中に
相手を喜ばせたいという
感情が眠っていることを
君と出会うまで
忘れていたんだ
誰かの笑顔を見るために
行動を起こすことが
こんなに幸せなことだと
+++++
誰かと過ごす時間は苦痛だ。だから、あまり恋はしたくない。それなのに、どうしてだろう。気付けば、君に恋をしていた。誰かに気持ちを示すのは苦手だ。言葉ではうまく伝えられないし、態度で表そうとすると空回ってしまう。一人の時間は大切だし、淡泊なところがあるから、特に予定がなくても、連絡だってあまりしない。
今までの恋人とはそれが原因で、幾度も浮気を疑われていた。
今回だって同じだ。どうせ、秋を迎える前に別れてしまうだろうと思っていた。それなのに、どうして君は、『落ち着いてからでいいよ。忙しい時期を乗り切ったら、ゆっくりデートしようよ』なんて純粋な優しさを向けてくれるのだろうか。それに報いることができる方法は、あるのだろうか。今まで抱いたことのない感情が胸を占めていく。
もうすぐ季節は秋――お互いの生活がほんの少し落ち着いて、デートする約束をした日が近づいている。まるで刺すように照り付けていた太陽の光は和らぎ、街路樹が彩りを変えてゆく。そのとき、きっとこの関係は変わってしまうかもしれない。少なくとも、僕の気持ちは、変わっているのではないかと思う。
菜摘のことをよく知る先輩に連絡するために休日を使うなんて、今までだったら、有り得なかったのに。気付けば自然とスマホに手を伸ばしている自分がいて、微かな変化は始まっているのだと、そう、思い知らされた。
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