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ぼくとあいつは高校で知り合った。だから、それまでのお互いの事情は相手が話さない限りは知る由が無い。
ぼくはぼくであまり自分のことを話したくない事情があり、そのために地元の知り合いが少ない学校の、しかも男子校へ進学した。
悪いことばかりではなかったが気遣いがどうにも重いことが多くて、それはやはり女の子の方が割合が高かったのだ。
女の子はきっと野郎よりも、誰かの傷を見て心を痛める人が多いのだろう。
あいつとは、入学以来席が前後して初めはプリントを回すのに「ほい」「おう」くらいのやり取りしかなかった。
口数の多い方ではない。むしろ少ない。
いつも賑やかなグループに混ざることもなく、なんともないような顔をして教室を眺めていた。
ぼくもそんな彼の凪いだ空気の方が性に合って、気付いたら彼の傍にいることが多くなっていた。と言っても彼は自席から動くことがほとんど無かったので、ただぼくらは席に座っていただけになるのだが。
彼が立ち上がるときはトイレか… 「購買行くのか」
午前の授業が終わって立ち上がったあいつに、ぼくは声を掛けた。
「うん」
「ぼくも行く。今日、弁当持ってきてないんだ」
「そう」
素っ気ない返事ではあったがこれが彼の標準的な所作だった。
ぼくを無視するわけではない。一つ頷くと僕が財布を持って立ち上がるのを待ち、歩き始めた。
あいつはいつも昼飯を買いに行っていた。毎日買いに行くようなので、いっそ学校に来る前に買えばいいのではとも思ったが、彼には彼の事情があるのだろう。
購買の方が安いしなと思いながら教室を出ると、あいつは購買部と逆側の廊下を進み始めた。
「待って待って」
思わず彼のシャツを引っ張る。
なにか、とばかりにあいつは振り返るのでちゃんと意思を持って進んでいたのだと分かった。
「購買部、逆だ。何か別用でもあったのか」
「いや、……」
彼は首を振ったが、何か考えるようにぼくの顔をじっと見つめてきた。
やや垂れ眼の凪いだ双眸だ。何を考えているのか分からないあたりは、よく言えばミステリアスだと評されるかもしれない。
「まあ…… いいや、行こう」
彼はやがて何か自分の中で解決させてしまうと、ぼくの肩を叩いて「こっち」と購買部の方へ歩き出した。
辿り着いた購買部の様子を見て、ぼくは彼が逡巡した理由を察した。
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