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季節は曖昧な春の雨を抜けて、なにがしかの予感を連れた初夏が訪れようとしていた。
ぼくは相変わらずあいつの席の後ろにいて春と何が変わったかと言うと、あいつがよく後ろを振り返るようになった。
温くいまだ乾いた風に僅かな水分の匂いが混じり始めている。雨が来るのかもしれない。
埋まっていない項目が残る宿直の日誌から顔を上げ窓の外を眺めようとしたところで、ぼくは同じように窓の外を眺めているあいつに気付いた。
少し眠そうな眼差しをしている。
すでに学校は終わっていて眠いならば早く帰って寝てしまえばいいのにとは思ったのだが、どうやら彼はぼくを待っているようだった。
ぼくと校外の店でパンを買って以降、ぼくとこいつは昼をいっしょに食べるようになった。登校はこいつの方が時間が遅かったのでバラバラだったが、帰りはそうと言い出したわけでもないのになんとなく一緒に帰っている。
空気が馴染むように、ぼくと彼は一緒にいる時間が増えていった。
特別な言葉を交わしたわけじゃない。
いや、そう思っているのはあいつばかりかもしれない。
少なくともぼくは一度、彼の言葉に救われている。
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