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天河宇美のあだ名はモンスターだ。年齢二十三にして、身長百五十三センチ体重九十キロ超えという完全な肥満体。横幅は同年代の女性の倍あって、どこにいても目立つことこの上ない、象のような足でのっしのっしと歩く姿を見た好奇心旺盛な子供などは指をさす。
宇美は雑貨店の店員だ。店はアクセサリーから日用品までを扱う商店街の一店舗。人と接っする仕事だから、見た目も気にしなければならない。仕事仲間が「痩せなよ」と苦言を呈しても、宇美の体はむしろ膨れる一方だった。
出勤途中にスナック菓子をコンビニで買って、仕事の前に間食。昼は高カロリーの肉を主体とした弁当、夕方はふらふらと牛丼屋やラーメン店に吸い込まれていく。さらに家につくまでにまたコンビニでアイスやチョコレートを買って帰るのだ。
今日も昼飯の大盛カルビ弁当が宇美の口の中へ、流し込まれるように消えていく。彼女のモンスターというあだ名には、その見た目の他に食べ物バキュームだとか、腹の中がブラックホールになっているのだとかの意味合いも込められていた。
「モンス……天河さんって、いつもよく食べるよねぇ」
「心が空くと、お腹も空くんです」
「なにそれ」
レジスペースの中で、店長の荻真紀が苦笑する。宇美はそちらを向きせずに、在庫表に今日陳列した品を記入していく。宇美がレジに入ると、スペースの殆どを埋めてしまうものだから、真紀は宇美がこちらを見ないのをいいことに、盛大に顔を歪めた。
在庫表を持つ宇美の指先が油でてらてら光っている。店に出る前に、またスナック菓子でもつまんだのだろう。あの在庫表を店長である真紀は確認しなければならない。きっとノートの表紙は油でぎとぎとになっている。
ちょうど、店内に客が入ってきた。そうして陳列される商品よりも先に宇美を視界に入れてぎょっとする。真紀は素早くレジから出て「いらっしゃいませ」と笑顔で客を迎え入れた。
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