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「モンスターちゃん、またお腹周り大きくなったねぇ」
雑貨店『EARTH』の他、いくつかの美容店も経営する卯月亮。店に視察に来た社長は、店内を見回すより先に宇美を視界に入れて、案の定のニタニタ顔。すらっとした体躯の三十男は憎らしいほどの美形だが、嫌味な顔をしても様になっているのは不公平だと宇美は思う。
宇美を最初にモンスターと呼び始めたのは彼である。社長がそうなのだから、宇美のあだ名は一気に広まってしまった。他店舗でも、宇美本人を知らなくてもモンスターというあだ名だけは独り歩きしてしまっている。
彼は宇美の入社当時の姿を知っている。それでもこんな意地の悪いことが言えるのだ。
また、心が空いた。昼休みは近くの丼物屋に行ってこよう。注文はもちろん大盛で、デザートも付けてもらうのだ。
そうだ、心が空くとお腹も空くのだ。
行こうと思った丼物屋があいにくの改装中だったので、いつもの通りコンビニで昼飯を買った。唐揚げ弁当とシュークリーム。
店のバックヤードにはバイト店員もいて、上目遣いに一礼される。その目にもの言いたげな視線を感じて、買って来た昼飯はこれだけでは足りなかったかと宇美は思う。
バイトに聞こえないように、宇美はそっとため息をついた。
最近はとくに体重増加が激しい。特に腹回りと足がぱんぱんに膨れている感覚があった。このままでは百キロをオーバーしてしまうだろう。
それは怖い。宇美だって太りたくなんかないのだ。それでも、食べることは止められない。
その、鬱屈とした感情でさらに心とお腹が空いた。
ふと、まだバイトがこちらを見ていることに気が付いた。確かこのバイトは新人で、井川瑞希といったか。彼女のじろじろとした視線に耐えきれず、宇美は気を逸らすために、かりかりに揚がった唐揚げに大口でかぶりついた。
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