始まりの日

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 雄太は咄嗟に華の腕を引き寄せ、その視界のものを傘で殴った。 「ア……アア……」  床に倒れていたそれは、映画や漫画で見るゾンビ、そのものであった。目は虚で口は空きヨダレを垂らしている。匍匐前進で地面を這ってきたのであろうか、動きは遅くザリザリと這うだけであった。砂利道や落ちているゴミもよけないのであろう、腕はボロボロになっていた。  雄太は華の手を掴み、道路を駆け抜けた。 「うそ……本当に……」 「華! け、怪我は?! 大丈夫か?!」 「すこし、足首を浅くひっかかれただけ」  噛まれてはないことに安堵し、本当にゾンビがいるんだと2人は慄く。急に走り出したためバクバクと心臓は脈を打つ。もちろんその動悸は恐怖からでもあった。二人は顔を見合わせ、ハアハアと息を整える。 「……と、とりあえず、はやく市役所にいこう」 「……うん」  雄太の汗ばむてで華の手を取り、また、走った。足が回らない華をぐいと引っ張り連れて行く。華は、細い足を一生懸命に回した。ハアハアと息が切れ足はもつれそうだが、止まってはいけない、止まったら死んでしまう。そう思うほどに、先ほどのゾンビに掴まれたことが衝撃的だった。当然である。華の足が、疲労からかがくんと一瞬落ちる。 「あっ!」 「大丈夫?!」 「う、うん!」  ズ、と足を引きずる。白い足に、赤く、すこし血が固まった赤黒い線が引かれている。  ジクジクと、鈍い痛みを、華は見て見ないふりをした。
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