始まりの日

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 華が傷を負ったアパートの廊下にも注意しながら、やっとの思いで部屋に着く。急いで鍵とチェーンをつけると、雄太はドアに背を預けズルズルと座り込んだ。 「はぁ……なんなんだ……」 「ゆうくん……」  雄太は、立っている華の足首をさすった。緊張感が解けたからか、家に入ったと同時に酷い頭痛が雄太を襲う。ドア越しに遠くから、未だ叫び声やサイレンが鳴り止まない。しゃがんでいる雄太に、華は抱きついた。太い首に、すり、と鼻をする。肺に、いつも通りの匂いが充満する。 「大丈夫だよ。ゆうくんも、きっと……私も」  ね、大丈夫。雄太にそういう華は、自分にも言い聞かせているようだった。  華の匂いで包まれた雄太は、どこか安堵し、うん、と華の背中に腕を回した。
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