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なにもない部屋だけど、と通された部屋は本当にお世辞も言えないような、ほんとうに無機質な部屋であった。ただベッドが置いてあるだけの部屋に、華は座っていた。重みで軋むベットは、物のない部屋に響いた。
「……1人っていうのも、久しぶりかも」
当然その独り言に、帰ってくる言葉もない。ベットにどさりと横になると、厚くないマットレスが肩を攻撃する。しんと静まりかえる部屋に、耳は少しだけ耳鳴りがした。
「ふう……」
最近全く寝ていなかった……眠くならなかったのだが、瞼がズシンと重くなってくる。家とは違う、知らないシーツの匂いと知らない天井に違和感を感じながらも、呼吸が深くなってくのを華も自覚した。
……安心したのだろうか。離れて安心するなんて、とすこし狭まって行く視界の中で罪悪感を覚えた。
あれだけ尽くしてくれたのに、離れて安心するのはゆうくんのほうだろう。……怖かっただろうな、辛かっただろう。自分のやるせなさ、無力さにため息が出る。
でも、これでもうゆうくんを怖がらせずに済む。自分の感情がコントロールできなくて、ゆうくんに当たることもない。
自分が自我を失って、襲って傷付けることもない。……傷付くですめばいいが、……殺してしまうこともない。
何度夢で見ただろうか、何度想像しただろうか。ゆうくんの肩に噛み付く、理性を失った自分。飛び散る血、感染するゆうくん。想像すると、胸がざわついた。
「これで……」
ゆうくんが傷付くことも、……私が傷付くこともなくなった。
「これで、よかったんだ……」
きっと。華はそう思う他なかった。
「おお、お前もたばこか」
「ああ」
「たばこも支給してくれれば捗るかも知れねえのにな」
「ハハ、違いねえな」
微睡む中で、ぼやぼやとした声が聞こえた。廊下で話す人の声だろうか、自分の呼吸で聞き取れないほどの話し声は華の耳には不完全に届いた。
「おい、あいつはどうだよ」
「あいつってフジタのことか?」
低い声は、部屋に響く。ぼやけた声であったが、尚更、ドカドカと歩く足音が邪魔をした。
「そう、フジタ。進捗あったのか?」
「なんにもないな。何をしても……ってところだ」
「まあ、手遅れだろう、ありゃあ」
「あそこまでなっちまったらなぁ……」
ぼやけた声は、だんだん遠くなっていき、また部屋には沈黙が訪れた。ただ部屋には、自身の呼吸音だけが響く。
フジタってだれだろう
私の他にいるのかな
手遅れ?よく聞こえなかったな
眠いなぁ……
ああ、なんか
「おなかすいたなぁ」
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